🌹最終回🌹
イフリーテの見せる幻は、波が寄せては返す音や潮の香りも感じられる。その中で、サーリーの穏やかで低い声がはっきりとサマリに伝わった。
「俺と暮らそう。嫁に来いよ」
サマリは、驚いて振り返ろうとしたが、サーリーは抱きしめる手に力を込めて離さなかった。
「サマリが好きなんだ。サマリとなら、きっと毎日が新鮮で、一生楽しく暮らせると思うんだ」
苦労も二人なら苦労と感じないだろう、とサーリーは言葉を続けた。
サマリも同じ思いだった。そんなこと、どうして今まで望んではいけないと思っていたのだろう？村を出て、ようやく自らの呪縛から解き放たれて、自分の幸せや未来について考える。
同時にようやく気が付いた。今まで何度もそれらしき言葉を投げかけられ、自分が見当違いの返事をしていた事実に。
「サ、サーリー、私は孤児で、普通の生活って何だかわからないし、持参金も無いし」
アレコレ言い訳をするサマリだったが、何故かサーリーは余裕の表情だった。
「うん、ありがとう。もう返事貰った」
「え」
返事はまだしていない。サマリは自分の気持ちを確認しようと黙り込む。この居心地の良い場所が、これからもずっと隣にあるのだとしたら？今まで自分が抱いていたこの気持ちに名前を付けるとしたら？
「つむじ風が起こらないって事は、俺の事、嫌じゃないって事だからね。孤児かどうかなんて、俺達下町の住人には関係ないだろ？」
つむじ風が起こったら、傷だらけになってしまう命懸けのプロポーズだと、サーリーは笑った。
サーリーと出会ってからも、サマリは何度も危険で不安な事に遭遇している。けれど彼が隣に居てくれて、何度助けられたかわからない。最終的にソルを向こう側へ行く決心をさせたのも、サーリーの言葉があったからだった。村人達全員を大移動させられたのは、彼がサマリより早く命の葉の価値に気が付き、スープを配った事が大きかった。
彼の服の裾を掴み、見上げると彼がいつもの穏やかな笑顔で見下ろす。それだけで気持ちが落ち着いて、前へ進む勇気が湧いた。
嫌じゃないどころか、この人が好きだと、多分ずっと前から好きだったと、サマリは急に自分の気持ちを自覚して、恥ずかしくなった。それなのに、サーリーの手を振り解けない。出来ないのではなく、したくないのだ。そう、自分はずっとこの腕の中に居たいのだ。
「私で・・・良いの？」
「サマリが良いんだよ」
サマリは、何度も確認せずには居られない。
「私は鳥の子よ？」
「俺がその宿り木になるよ」
この人は、こんなにも自分の欲しい答えをくれる。この人とこれから先ずっと一緒に生きていく。それは想像しただけで心が軽くなる幸せな未来。
「あの・・・みっつめのやる事、お受けします」
サマリがはにかみながらそう返事をすると、サーリーは「よっしゃぁー！」と叫んで、後ろから抱きしめていた手を離し、ガッツポーズをした。そして、次の瞬間軽々とサマリを抱き上げる。
「きゃーっ！サーリー？！」
サマリの身体が幻の太陽の陽射しを背に受けて宙に舞い、遠心力でぐるっと一周すると、そのまま二人は砂浜に投げ出されるように倒れ込んだ。
「ふふ、あははは！」
空を仰ぎ、サマリは思わず声をあげて笑い出す。
「あはは、すまん、嬉しくて！」
笑い終わると、二人は大きく深呼吸して身体を起こした。お互いの身体に付いた砂を払い落とし、並んで座る。
「もし、バンダルさんが許してくれるなら、サーリーと食堂を開きたいわ」
お互いが一番充実していたマッカでの記憶は、今現実を帯びる。
「俺の夢、覚えててくれたんだ？」
やっと想いを確認しあった二人は、堰を切ったように話し始めた。
「勿論よ！サーリーのスープは絶品だもの。きっと上手くいくわ」
オアシスの村という巣を飛び出し、新たな自分の巣を作るのだ。
サーリーが厨房を担当し、サマリは注文を取る。そんな場面が二人の頭の中に浮かんでくる。
🌹
まだ目の前に夢幻郷は広がっている。イフリーテは、秘宝を持つ友の娘の未来を祝福して、この景色を見せてくれているのだろう。
自分を鳥の子と表現したサマリ。物心着いてからずっとフワフワした不安を抱えて歩いて来た人生は、今ようやくしっかりと地に足をつけて歩き始める。
心地よい波の音。一生忘れる事は出来ないだろうこの夢幻郷の景色を前に、サマリは誓った。
「ソル！遠くから私を見守って！私、必ず幸せになるから」
🌹おわり🌹
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🌹ケミンさんに写真掲載許可は頂いています。
ハグして貰ってますが悲しいくらい撮影用ですꉂ😂
『ちゃんと⬆️説明しておくから！』
『（掲載しても）いいよ〜、ちゃんと言い訳しといて？』
ってꉂꉂ(ˊᗜˋ*)💦、急に現実が！いつも我儘な撮影に付き合ってくれてありがとう🌹
というわけで、次回あとがきに続きます。
