83.足跡


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『さて、俺も最後の仕事をするかな』

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すぅっとサマリの横に降りて来たリヤハに気が付き、サマリはようやく我に返った。

「最後の仕事?」

サマリが尋ねると、リヤハは手を広げて周りを見渡すような仕草をした。

『見てわかると思うが、神殿が戻った事により、もうここへ来る道は塞がって、無い』

ギョッとしてサマリも周りを見渡す。

ずっとそばにいたサーリーも、サマリが急に動いたので何事かと身構えた。

今サマリが立っている場所は、高さで言うと神殿の屋根辺り。天井は無く空が見え、神殿の屋根を隙間から見下ろせる。周りを岩壁に囲まれて外からは見えない。こちらを見ようと思ったら、神殿の屋根に登らなくてはならないが、そんな不敬で危険な事をする者はいない。元々この場所は、サマリが家としてテントを張って生活していたが、既にテントはリヤハの爆風で吹き飛ばされており、命の草が生えていた場所も更地となっている。通常サマリが昇り降りしていた神殿外壁の隙間は、イフリーテの秘宝の力によって元に戻り、綺麗に埋められてしまった。当然、横穴も無く、ソルの巣がある場所はどうなっているかわからない。

「これって、閉じ込められちゃってるって事!?」

状況を把握したサマリは、思わず叫んだ。

『まぁ、そうなるな』

サマリは思わずサーリーの服の裾を掴んだが、掴まれた方もどうしようもなく青ざめるだけだ。

『だから私がお前達を下へ降ろしてやると言っている。さぁ、サマリ、お前の住処も見納めだ』

別れは、ソルだけでなく長年住み慣れたこの場所もだった。

しかし、既に自分が寝起きしていた時の面影は無く、思っていたより冷静で居られた。サマリは辺りを目に焼きつける。まだ緊張も残っているのか、涙も出てこない。

「サーリー、私に掴まっていて?」

サマリがサーリーの腰に手をまわしたので、サーリーも神妙な面持ちでサマリの腕を取った。

「う、うわぁ!!!??」

突如二人は突風に包まれて身体が宙に浮き上がる。不安定に身体が回転し、上下の方向感覚が狂う。

サマリは思わず目をつぶってしまいそうになったが、ほんの一瞬だけ、神殿の上からオアシスの村全体が見えた。 

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(なんて美しいの!)

一部むき出しの大地が見えるが、砂漠の中に佇む白い神殿、それを取り囲むヤシ等の木々の緑、元通りになって降り注ぐ太陽の光、それを反射する湧き出る水の煌めきが、サマリの瞳に映し出された。

それはサーリーも同様だったようで「おぉ」とすぐ隣で声にならない声が漏れ出るのが聞こえた。

宙に浮いていたのはほんの束の間。リヤハは二人を村の真ん中の広場へと降ろした。二人はまだフラフラして砂地に座り込み立てないままだ。

「二度も空を飛んじまったぜ」

サーリーはほっと胸を押さえた。

まさか自分にこんな不思議な出来事が起ころうとは思わなかった。サマリは何か自分に見えないものと話をしていたが、何故かすんなり受け入れられた。ルフ鳥の脚に掴まって命懸けの時間を過ごした事を思えば、全て大した事ではない。

『ではな。ルフの娘よ。これからは風のように自由に生きるが良い』

リヤハはニヤリと笑って宙へふわりと浮き上がると、すぐに姿が見えなくなった。

「ねぇ、サーリー。リヤハ様が、風のように自由に生きろって」

呆然とサマリが呟いた。

「私も結構、色んなものに縛られて生きてきたのかな」

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そう言って二人は座り込んだまま、村の広場をぼんやり眺めた。

イフリーテの仕事は完璧に近く、村は何も変わっていないようだ。

ソル、イフリーテ、そしてリヤハも居なくなってしまったが、まだサマリにはやり残した事がある。村を点検し、その後村人達を呼び戻しに行く事だ。

神殿の方角から村の門に向かって、放射状に砂地に筋がみえる。これは先程の地震と秘術に危険を感じた村の周りの生き物達が、我先にと逃げ出した足跡だった。

「・・・」

その中に、サマリは少し奇妙な足跡を見つけた。

「これ、なんだろう。こんな大きな生き物、いたかしら」

サーリーもどれどれと腰を浮かして、指さされた場所を慎重に覗き込む。

「でかいね。ラクダ?」

その足跡は他のものと違って新しく、少し蛇行して村をウロウロした後に外へと続いていた。    

                              続く                  


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