それは、オアシスの村の門でサマリが村人に見せた夢幻郷だった。
二人は、いつの間にか白い砂浜に座っている。
視界は開け、目の前は青い海。水平線の彼方に、何処かの世界の建造物がうっすらと見える。
夢のような光景。幻だとわかっているのに、あの先を追いかけたくなる。
「イフリーテ様?」
戯れにこのような幻を作る事があると、以前言っていたのを思い出したのだ。
思わずサマリは立ち上がった。
『サマリ、サマリ、鳥の子よ』
確かに、自分の名を呼ぶ甘く低い女性の声が聞こえた。
『ふふふ。その魔石の気配で、そなたのいる場所がわかってよかった。あの時は友と共にあちらへ行ってしまったのでな、礼を言いたいと思っていたのじゃ』
どうやら、今回はサーリーにもその声が聞こえるらしい。サーリーも真剣な面持ちで耳をすませている。
『我が願いを聞き届けてくれて感謝する』
あの時は、承諾せざるを得ない状況だったとはいえ、サマリは自分の決断に後悔はしていなかった。
「いいえ、私こそ、村を元通りにして下さりありがとうございました」
ソルは向こう側の世界で今度こそ上手くやっていけそうだと、イフリーテは嬉しそうに教えてくれた。
『次の日蝕に、また・・会える』
その言葉を最後に、気配が薄れ、慌ててサマリは大きな声で叫んだ。
「イフリーテ様!次の日蝕はいつ!?」
『マッカの神殿・・に・・巫女を訪ね・・』
フッと目の前を熱い空気が通り過ぎ、直ぐに耳元に穏やかな波の音が聞こえてきた。しかし、それさえも、幻だ。
🌹
「神殿には、なんだか難しい暦ってもんがあるらしいよ。サマリなら、それを調べる事も出来るんじゃないか?」
サーリーはそう言うと、手で服の砂を軽く払い落としサマリの隣に立った。
夢幻郷は揺らめき、見るものを誘っているかのようでもある。しばらくこうして見ているのも悪くない。サーリーの隣は居心地が良くて、なのに今はなんだかソワソワして、話で気を紛らわしたかった。
「両親の事を調べたり、次の日蝕も調べたり?生活もしていかなきゃならないし、忙しいわ!」
困った困ったと言いながら、そんな困った様子にも見えないな、とサーリーは笑った。
全く、この娘は人を頼ることを知らない。
「マッカに着いたら、サマリがやる事」
と、サーリーは人差し指を立てた腕を前へのばした。
「うん?」
「ひとつ、御両親の出自を探す。ふたつ、神殿で次の日蝕がいつなのか調べる。みっつめ、ここからが一番大事」
サーリーは、周りに誰も居ないのに、そっとかがんでサマリの耳元に顔を近づけた。
「ちゃんと言わないとほんとわかんないみたいだからさ、よーく聴けよ?」
幻の太陽の陽射しが、サマリの金の髪を照らす。サーリーは指でサマリの耳にかかる髪をかきあげて、そっとサマリを後ろから抱きしめる。息が頬にかかりそうになって、サマリは思わず目を閉じた。
続く
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