80.砂漠の生き物達


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蝕はさらに進む。薄暗い光は、何処か夜とは違う不安を誘った。

目の前のイフリーテは今や自らの炎に包まれて、崩れた神殿の全てを上から覆い尽くしていた。

「燃えてる・・・・何もかも」

しかし、こんな近くにいるのに熱さは感じない。また、火の粉が飛び散るという様子もない。イフリーテの炎は対象の神殿とそこに付随する植物や大地にまとわりつくように干渉している。

その様子に茫然と立ち尽くす二人の足元を、急に何かが駆け抜けた。

「うわっ!な、なんだ!?なんだ!?」

サーリーが思わず声を上げ、たたらを踏んだ。

砂漠で貴重なオアシスの周りには、数多くの生き物が生息していた。砂漠ウサギや大スナネズミ、トカゲに、サソリ、クモ、アリまで多種多様だ。

そのオアシスで生息していた動物全てが、今必死にオアシスから脱出しようとしていた。

誰が教えなくても、この神殿周辺にいてはいけないのが本能でわかったのかもしれない。

鳥たちは既に大空へ飛び立っていた。

今や廃墟の神殿とその周りの木々は炎に包まれ、輪郭が見えなくなっていた。そこから危険を察知した動物達が我先にと駆けていく。サマリとサーリーは身を守ろうと一瞬身構えたが、皆人間に構っているヒマは無さそうだ。

リヤハが二人の周りに施した結界が地面に丸い円を描いているのがわかるほどに大量の虫たちが脇を走り去っていく。普段虫が平気なサマリでも、この数には背筋に悪寒が走った。

「サマリ、オアシスってこんなに沢山の生き物がいたんだな」

サーリーは何か喋っていないと平常心が保てない気がして、つまらない事を口にした。

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『皆、命は惜しかろう。百歳の年寄りも、赤子になる訳だからな』

リヤハが薄い笑いを込めて、怯える二人に声をかけた。思わずサマリは、サーリーの服の裾を掴む。自分という存在が無かったことになってしまう、よくよく考えると恐ろしい術なのだ。

生き物達は神殿から村の方へと降りていき、村から岩砂漠へと走り去る。そして四方八方に散っていった。もしここに村人がまだいたとしたら、パニックになっていたに違いない。

逃げることの出来ないオアシスの中の魚達は、水面にしきりに水しぶきをあげたが、炎はオアシスの水辺の植物をも焼きつくそうとしている。魚は出来る限り神殿と反対側の位置に寄ろうとして飛び跳ね、陸に上がってしまうものもあった。

『サマリ。ルフの娘よ、今一度そなたの願い、唱えるが良い』

イフリーテは、燃え上がる神殿の中から、こちらを見据えた。

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マッカの街で月の姫が自分の事をルフの娘と呼んだように、イフリーテもまた、ロック鳥であるソルをルフと称した。

思い出せ、思い出せ、とサマリは必死に頭を回転させた。この神殿の地下に入り、月の光と共に浮かび上がった文字の数々。パピルスに書き記したそのセリフ。

「宝求めんと欲するものよ

月の子供の祈りを捧げよ

その炎は命の光

時を移し、何処に誘わん

月の子の譜を捧げ

佳人リーテの炎を授からん」

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この【月の子供】はサマリの読み違えで、実際は【ルフの娘】だとわかった。

【時を移す】のが正にこの秘宝の力

その成功の為に、イフリーテはサマリの言霊を待っていた。

サマリの求める【宝】。イフリーテはその答えを求めている。

                                  続く


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