村の外は赤い岩砂漠の大地の為、この怪しい足跡はすぐ分からなくなって後を追うことは出来なかった。
「なんだろう、少し気味が悪いわ。早く長老達に合流しなきゃ」
サマリは立ち上がり、サーリーに手を伸ばす。
サーリーは迷わずその手を取り、続いて立ち上がる。
「行こう」
ほぼ一日の行程でも、砂漠の旅が辛いことには変わらない。サマリはサーリーに、村で待っていても構わないと提案したが、サーリーは笑って首を横に振った。
「とことん付き合うって決めたんだ」
サマリはそれを聞くと少しほっとした表情で、
「ありがとう」とだけ呟いた。
サマリは長老の家の納屋から、用意してあった布袋を取り出してきた。太陽の強い日差しから肌を守る目深で地味な砂色の布のローブを、サーリーに渡す。ローブは元々サマリ一人分しか用意していない。そこで、自分は長老の家の前にかかる大きくて派手な赤色の旗を力いっぱい引き剥がし、ぐるっと身体にまとった。それは村の目印となる旗であり、長老がとても大事に扱っていたものだ。
「ふふふ、怒られる時は一緒よ?」
旗を支えていた細い棒が途中から曲がって倒れたままになっているのを目の当たりにし、サマリの大胆な行動にサーリーは驚く。しかし、砂漠の旅で肌を守るのは何よりも大事だ。しかも自分にローブを貸したせいでこうなってしまったのだから、怒られる時は一緒なのは当然だと腹を括った。
サマリは愛用の短剣をしっかり腰に差し直し、サーリーには食料の一部を持たせ、手早く準備を整えた。
「慣れてるんだな」
テキパキとした様子のサマリを感心して見ていると、サマリは楽しそうに答えた。
「そうよ!隣の山へは、しょっちゅう出かけていたわ」
村で長老の手伝いが無い時は、小遣い稼ぎに岩塩を取りに出かけていたのだと言う。
海のそばで育ち、毎日しょっぱい井戸水に悩まされてきたサーリーには考えられない事だった。
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オアシスの村の門まで来て、サマリはふっと村を振り返った。
神殿は奥まっているので、ここからはみえない。いつもと変わらない村の眺め。しかし人っ子一人居ない、動くもののない村は何処か寂しげだ。
イフリーテはソルと立ち去る時に、腕輪をサマリに返してくれた。しっくりと腕に馴染んだそれに視線を戻す。
「お父さんの形見だけど、秘宝だなんて持ってるのが怖いわ」
イフリーテの力が宿っているとすれば、それは炎の力である。このオアシスの村にあるのは風の神殿で、炎の神殿はマッカにあった。
マッカには他にも、主となる光の神殿が建っている。
その時、ふとサマリは思い立った。
この腕輪を、イフリーテに返しに行こうと。再びマッカにある炎の神殿を訪れて、彼女に会いたい。もしかしたら、その途中で両親がどんな人だったか聞けるかもしれない。
この前聞きそびれてしまったその事を思い出し、急に目的が出来たサマリは、元気が出てきた。
ソルと別れ、家を失い、まだ村の為にしなければならない事があるサマリ。けれど、それさえ終われば、自分は今度こそ本当の自由を得られるかもしれない。
ずっと疑問だった自分の生い立ち、それが分かれば、この毎日何となくフワフワした気持ちが落ち着いて、どっしり地に足をつけて歩いて行けるのではないだろうか?
「出発よ、サーリー!早く村の人達を迎えに行かなきゃ!それが全て終わったら・・・」
足取りも軽く、くるっと目の前で回るサマリを、サーリーは眩しそうに見詰めた。太陽に反射して、ローブからはみ出た金の髪が煌めく。
「終わったら?」
肩の荷物を背負い直し、笑って訊ねる。
「終わったら言うわ!」
まだ緊張は溶けきらないものの、サーリーの知っている元気なサマリが戻って来たようだ。
「そうだな。まずはやるべき事を終わらせよう。頼りにしてるよ、サマリ」
そして二人は岩砂漠へと歩を進めた。
続く