97.緑の魔石


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                         『エピローグ』

見渡す限り、赤茶けた岩とくすんだ色の多肉植物。視界を所々遮る低めの岩山の為、地平線を見ることは出来ない。

西へ西へ、沈む太陽に向かって、サマリとサーリーは歩き続けていた。

岩山の間を練って、長い間に出来た轍の道が辛うじてわかる。此処を通れば道に迷うことも無い。

砂漠は思いの外、多様な生き物が息づく場所であり、岩壁も色とりどりの層を為し、美しかった。

砂ネズミが少し先を横切ったり、蟻が何かの食べ物を運んで列を作る様子を見つけたり、サマリはいちいち反応し、喜ぶ。無駄に動きが多いが、体力は底無しで疲れる様子もない。

一方、それなりに家業で鍛えたサーリーでさえ砂漠の旅はまた別物で過酷だった。今にも走り出しそうなサマリを見ながら、必死に歩を進めている。

視線の先の太陽は、そろそろ岩山の間へ姿を隠そうとしている。

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「今晩の寝る場所を確保しなくちゃ」

どこも似たような景色だったが、サマリはキョロキョロ辺りを見廻すと、少し視界の良い平らな場所を選んだ。

サーリーも焚き火を起こすために燃えそうな枯れ草を集め始めたが、何しろ慣れない砂漠での野宿の準備は何をするにももたついてしまう。しかし、旅慣れていると自分で言っていたサマリは、

「えへへ、実は私、火の起こし方よくわからないの」

と、その様子をのんびり眺め、背中の荷物を下ろして背伸びをしたり身体を伸ばしはじめた。

辺りは夕焼けに染まり、今まで身を潜めていた生き物達の動きが活発になってくる。

「普通の生活するには覚えなきゃね」

火を起こせずに、今までどうやって生活してきたのか、興味は尽きない。

実際の所、ソルに育てられたサマリが普段口にしていたのは命の葉が主であり、他には果物など生の物ばかり。火の入ったものは、長老達がご馳走してくれた時に口にするだけだった。

サーリーは四苦八苦しながら種火を作り、小さな枝を積んでそっと空気を送り込む。しばらくそれに没頭していると、サマリはいつその場を離れたのか、手に何かをぶら下げて岩陰から戻ってきた。

「これ、炙れる?」

と、差し出したソレは、サーリーも街でよく食べる種類の大きなトカゲ。サマリに首を掴まれて、手足をだらんと下げている。それ一匹で十分今晩の夕食になる。サマリは驚くサーリーの傍で、トカゲを傍らに放り出して座り込み、無邪気に焚き火を眺めた。

「ちょっとこれだけじゃ、焚き火がすぐ燃え尽きてしまうな。明るいうちに、もう少し何か燃えるものを探してくるよ」

とサーリーが腰を半分あげると、サマリはガサゴソと腰の袋から何かを取り出し躊躇いもなく焚き火へと投げ入れた。

ボゥ!と大きな音がして、炎が上がる。

安定した炎が出来上がり、暗くなり始めた辺りを照らした。

「わぁ!やっぱり」

サマリはニコニコとした表情で手を叩くと、サーリーを見た。

「サマリ、こ、これ・・・」

サーリーが凝視する炎の中には、あの拳大の魔石が転がっていた。

出発前にナージフは「この魔石は現在は希少なもので、もし神殿に持ち込めばかなりの金額で引き取ってくれるだろう」と教えてくれた。それをサマリは無造作にくべてしまったのだ。

慌てて炎の中から取り出そうとするサーリーを、サマリは止めた。

「サーリー、良いの。私の好きにさせて」

いつもと違う静かな声に気が付き、サーリーは手を引っ込めた。

「大きすぎる力は、危険よ。制御出来ない力もね。これはこの世にあってはならないものよ」

無意識につむじ風を起こし、制御出来ずに他人を傷つけた事のあるサマリの言葉は重かった。

だから、燃料になるなら使ってしまいましょうと言う。オレンジの炎の中で、緑の魔石は熱を帯びて光り続ける。

「無いものねだりだけどね。私が欲しいのは普通の生活。贅沢は要らない。名声も要らないわ」

風の加護を持ち、古代語を読めるサマリなら、神殿が喜んで迎え入れてくれるだろう。けれど、本人はそれを望んでいない。神殿に魔石を持ち込めば、結果的に自由が失われてしまうだろう。

「サマリ・・・」

なんとなく色んな思いが考えをよぎり、黙って焚き火を見つめていた二人だった。しかし、夜に向かうはずの周りが、急に昼間のように明るくなっていくのに気が付き、ハッと顔を上げた。

「サーリー、これはあの時の?」

                                   続く


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☆あと二話で最終回とし、後書きをひとつ加えて100で締めたいと思っています。