「お、おい、サマリ、怪我人に何してんだ?」
ラクダを連れて戻ってきたナージフは、見間違いと思いつつも声をかけずにはいられなかった。遠目に、サマリがサーリーの口を布で塞いでいるようにしか見えなかった為だ。
「あ、おかえり、ナージル」
きょとんとして笑顔を浮かべたサマリと、苦しそうに口をもぐもぐさせているサーリーを見比べて、ナージフは苦笑いした。
「飲め飲まないの押し問答するのが嫌だったの」というサマリの無茶な答えに、ナージフは呆れて何も言い返せない。
ナージフは、手早くサーリーの背中を確認する。こびりついた血の量の割には軽症に見え、胸を撫で下ろす。ナージフは知らないが、既に命の葉の効能は出始めている為、治りが早いのだった。
近くの岩陰まで二人でサーリーを運ぶと、ナージフはサマリに看病を任せ、自分は村人達に帰村を促す為にラクダと共に戻っていった。
🌹
サマリとサーリーは数刻の後、村長一家を初めとする村人達と、合流する。
村長の息子達はサマリとサーリーとの再会に湧いたが、怪我人のサーリーを見て少しだけ緊張が走った。まだ歩くのは厳しいサーリーを荷台に乗せ、村へ戻る事になった。
サマリの話から、あの緑の魔物が村の広場の足跡の正体である可能性は大きく、ナージフとイブンは警戒を強めていた。魔物が、倒した一匹だけとは限らない為だ。
「村へはまず俺たちが先にはいりますから、少し手前で待機してください」
ナージフは村長とそんなやり取りを始める。
帰り道は比較的皆静かな砂漠の旅だった。
たった二晩村を開けただけなのに、誰もがもっと長いような気持ちになっていた。
サマリが緑の魔物と戦ったという話が村人達に伝わると、一部はその武勇を褒めたたえ、一部はその稀な存在を忌避した。
当のサマリは、そんな村人の視線から逃れるようにサーリーと同じ荷台に上がり込み、傍から離れようとしなかった。
一日かけて、村人達は無事オアシスの村まで戻ってきた。ナージフが村を見て回ったが、特に異常は見当たらない。村の入口に近い家の人々は、もう荷物を運び入れようとしている。念の為、選ばれた数名がここから奥まった神殿を偵察に行く事となった。
サーリーから離れたがらないサマリも、当然人数に入っていた。
続く