96.出発


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最後の最後に、長老はサマリを手招きし、我が子のように抱き締めてくれた。

「寂しくなるよ。身体に気を付けてな」

長老の腕の中でこの言葉を聞く事が出来、もう思い残すことはない。

サマリは村長一家に挨拶を終え、ラウダ達に見送られて家を後にする。

二人は次に村の広場まで足を運んだ。

そこには日雇い労働に精を出すナージフとイブンの姿があった。次の隊商が此処を訪れるまで滞在し、帰りに雇って貰う算段らしい。

サマリがサーリーと共に声をかけると、手を止めた二人が駆け寄って来た。

「一緒にマッカに帰りたかったよ、傭兵代なんて要らないから、雇ってくれないか?」

イブンが、チラチラとサーリーを見ながら、サマリに話しかける。その視線の意味を知ってか知らずか、サーリーは何処吹く風だ。

ナージフは今にも仕事を放り出しそうなイブンを軽くこずくと、サマリに向き直った。

「良かった、これを渡そうと思っていたんだ」

ガサゴソと腰から取り出したのは、あの緑の魔物の心臓部分、魔石だった。それは拳大に大きく、透き通って光り輝いていた。今まで、ソルも出かけた帰りに似たようなものを何度か持ってきてくれた事があったけれど、そのどれよりも大きかった。そういえば、あの親指大程の魔石はソルに預け、巣の中に放置したままになっていた。ソルはあの後どうしただろうか。

サマリは、ナージフが差し出す魔石の大きさを見て、今更ながら自分が倒したものの恐ろしさを認識して震えた。

財産になるからと親切で渡そうとするナージフ、あまり良い思い出が無くて拒否するサマリ。二人の間で押し問答があった。

「え、じゃぁ俺貰っていい?」

と、イブンが厚かましく上から手を延ばしてきたので、ナージフはその手をパシャリと叩き、呆れた顔で睨みつける。

「お前なぁ」

ケロリとしたイブンを見て、肩の力が抜けたサマリは、ようやく魔石を受け取った。

「やっぱりいただくわ。ナージル、ありがとう」

本当は自分もサマリを送って行ってやりたいナージフだった。しかし、今は無理だ。だからせめて自分に出来ることをしてやりたかったのだ。

「マッカで会おう。落ち着いたら、ギルドに連絡を」

「わかったわ。名前を出せば良いのね!」

神殿探索の時には は緊張していたサマリだったが、明るさが戻った様子に、ナージフはホッとしていつもの軽口を叩いた。

「そろそろ覚えようぜ?俺は『ナージフ』」

サマリに武器の扱い方を教え、人と交流する事を教えてくれた兄のような存在のナージフも、ようやくサマリが独り立ちする事を喜んでいた。

もう、定期的にオアシスの村とマッカを往復しなくても良くなった。今度はもう少し、違うルートの割の良い仕事を見つけてもいいかもしれない。イブンも、もう少し鍛え直してやらねばなるまい。

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「何言ってるの?私にとっては、いつまでもナージルはナージルよ!」

軽やかに身を翻す少女は、いつからこんな風に屈託なく笑うようになったのだろうか?いつも抑えた笑みで自分にまとわりついていた幼い姿はもうここには無い。

(俺も歳をとるわけだよな)

ナージフはサーリーの肩をぽんと叩いて一瞥すると、イブンの腕を掴んで強引に仕事場へ戻って行った。

                                    🌹

村長の家族との別れは家で済ませた為、オアシスの村の門を出る時は、サマリとサーリーだけ。見送る者はいなかった。遠くに見える村人の影も、特にこちらに気づく様子もなく過ぎて行く。

「さよなら」

サマリは村の景色を目に焼きつけるようにじっと立ち尽くしたが、声も表情も明るく隣のサーリーを仰ぎ見る。

「行きましょう、マッカへ」

次に此処を訪れるのは数年後か、それとももっと先か。

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「今までも一人で自由だったけど」

と、サマリが小さな声で呟くのを、サーリーは確かに聞いた。

「あれって、本当の自由じゃなかったのかなって、今そう思える。上手く言えないけど」

サマリの足元で、小さなつむじ風が巻き起こるが、直ぐに収まる。

サーリーは背中の荷物を背負い直して笑って言った。

「本物の自由を、確かめに行こう。世界が広いって事、俺も知らなかったよ」

サマリは大きく頷いて、自分の腕に嵌る金の腕輪を眺めた。そして再び顔を上げると、赤茶けた大地へ一歩踏み出す。

                                 続く


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