77.力持ち


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「オアシスが見えない場所まで」

というサマリの指示の元、村長を中心として村人達はなけなしの財産を手に村を出た。

寝たきりの老人や病人を馬車に乗せ、向かう先は村人達が普段岩塩を取りに行く山の麓。村から大人の足で約半日の距離である。

イブンは幌馬車の御者台を村人に託し、自分は徒歩で傭兵の仕事に精を出す。元気で準備が整った者は、イブンの隊に先行して村を出発した。

後続のナージフの隊に、長老を始めとする村長の一家。それに、サーリーも付いて行く事になり、サマリとソルだけが、村に残る手筈となった。

「サマリちゃん!本当に一人で残るの?」

泣きそうな顔でラウダがサマリにすがろうとするが、サマリはその手を取り、笑って村の外を向かせた。

「心配いらないわ。全てが終わったら、知らせに行くから向こうで待ってて」

次男のスウードがラウダの肩を抱き、もう行こうと促す。

                                    🌹

その時ふと風と気配を感じて視線を上げると、上空にイフリーテとリヤハが連れ立って浮いているのが見えた。

「リヤハ様!イフリーテ様!うそ、明日じゃないの!?」

心の中でサマリは叫んだ。

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傍らのソルがそのまま舞い上がり、二人に挨拶をし始めたが、村人達に気が付いた様子はない。

(やはり姿は私とソルにしか見えないのね)

サマリは少し強引に、ナージフに出立するよう促した。

「長老、宿屋のおじいさんはアンワルに任せていいよね?みんなは先に行って!!」

長老がサマリを心配そうに見つめる。

「大丈夫!お願い、急いで!」

上は気になるし目の前の村人も心配、サマリは焦りまくってきていた。出来れば面倒なことになる前に、村人達には早く出ていって欲しい。

先程からサーリーの姿が見えないが、デイヤーの相手でもしているのかもしれない。

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サマリはナージフへ全てを任せ、挨拶もそこそこに、神殿の自分のかつて住処だった場所へと走っていった。

                                🌹

どこにでも必ず、頑固で言うことをきかない者は一定数居るもので、それがこのオアシスの村では宿屋のおじいさんであった。

村人のほぼ全員が出発したのに、おじいさんだけはガンとして村を離れようとはしなかった。

歳はとっていても健康そのもので力もあり、村長の所の長男アンワルの説得に応じず、未だに二人は村にいて、部屋の中で押し問答をしていた。

「何も無いならここに居ても良いじゃろ!?誰にも迷惑かけん!」

既にそれこそが迷惑だ、とアンワルは思ったが、次期村長として仕事をしなければならず、引きずって連れていく訳にもいかず、手をこまねいていた。

「一人じゃ無理だろ?」

ひょっこり顔をのぞかせたのは、後続隊で出たはずのサーリーだった。

「な!?サーリー?もう行ったはずじゃ?」

アンワルは驚いたがそれを問い詰めている余裕は無かった。サーリーは勝手に中に入ってきてツカツカと宿屋のおじいさんに近づいた。そして不審な顔で固まっているおじいさんに、にっこり笑いかけ、

「さ、行きましょうか」

と言ったかと思うと、家業で培った背丈より大きな絨毯を運んだりする要領で、いとも簡単にひょいとおじいさんを背中に乗せて立ち上がった。

「な、何するんじゃ!話せ!」

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力仕事はサーリーのお手のものだった。その細い体の何処にそんな力があったのか。街の人間だとたかを括っていたアンワルは驚く。

おじいさんはしばらくサーリーの背中で暴れていたが、おぶわれたまま村の門を一歩出ると諦めたのか大人しくなった。

「アンワルさん、後は変わって貰えますか?」

サーリーは背中のおじいさんをアンワルに託すと

自分は再び村の中へ入っていこうとした。

「待て!サーリー!お前も一緒に離れないと」

しかし、サーリーは笑いながら後ずさって村へ入っていく。

「俺、サマリとの約束があるから!」

サーリーの手には、残りの命の葉が握られていた。村を出る時に自分に使えとサマリに押し付けられたものだ。

アンワルは追いかけることも出来ず、サーリーを見送った。強く引き止めることが出来なかったのは、あの迷いの無い表情を見たせいか。

サーリーが何事も無く廃墟の神殿にたどり着けるように、今は祈るばかりだ。

「アンワル、あの若者は誰じゃい」

もう村に戻ることは諦めた宿屋のおじいさんは、赤茶けた大地をしっかりと踏みしめながら訊ねた。

「サーリーの事ですか?んー、サマリと共に来たマッカの街の青年なんですけどね。彼は彼で不思議な奴ですよね」

アンワルはそう言うと、おじいさんを促して砂漠へ歩を進めた。

                                 続く


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