93.水辺にて


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村の広場に横付けされた荷台からは、もう村人の家族は全員引き取られていて、サーリーだけになっていた。

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「サーリー、具合はどう?」

サマリが荷台を覗き込むと、サーリーは上体を起こして座っていて、顔色も悪くない。命の葉の効果は絶大、驚異の回復力である。

「嘘みたいに調子が良いよ」

する事もないから座っていただけだ、といつものように優しい笑顔でこちらを振り返る。f:id:solz29dq10:20230404073427j:image

「サーリー、オアシスまで歩けそう?旅の汚れを落としてあげたいの」

「それは嬉しいな」

二人はゆっくりとした足取りで、オアシスへ向かった。歩いているあいだ、サマリは先程の出来事を話して聞かせた。

神殿へ行ったこと、中の様子、魔物は居ないこと。

こんなに心置きなく喋ったのはいつ以来だろう。ようやく、自分の使命は終わろうとしている。

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途中、サマリは何処かの家へ入って行って、一抱えもある袋を持ってニコニコしながら戻ってきた。
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小さなサマリの顔が半分埋もれていたので、サーリーは荷物を持とうかと提案したが、

「何言ってるの!?怪我人にそんな事させられないわ!」と荷物を抱きしめる。

オアシスの水辺には、村人が水を汲みに来ている姿が何人も見られたが、皆忙しいのかサマリとは軽く挨拶をする程度だった。

「さぁ、洗うわよ!」

サマリに問答無用に上衣を脱がされて、最初戸惑っていたサーリーだったが、海水ではない水をこんなに贅沢に使えることに興奮していた。

「その先は少し深くなるから気をつけて」

サーリーに手招きをして、向こうを向いてもらうと、小さな布でこびりついた血糊を落とす。背中の傷は本当にうっすらとしか残っていなかった。

サマリは、傍らの衣服にそっと目をやる。サーリーの衣服は背中を裂かれてもう使い物にならない。

甲斐甲斐しく世話をするサマリをサーリーは黙って眺めていたが、その視線に気づいたのか、サマリは少しはにかんで俯いた。

サマリが先程の荷物を草むらに広げると、そこには、古着だが綺麗に畳まれた男性向けの衣類が一式揃っていた。

差し出された布で身体を拭き、着替える。

その間、サマリも顔を洗ったり身支度を整えていたが、お喋りする口も止まらない。まるで何か問われるのを避けているかのように。

そのうち、話はリヤハに巣立ちを促された内容にも及んだ。

「巣立ち?」

「そう。私、村を出ようと思うの。長老は怒るかもしれないけれど、もう住むところも無いし丁度いいかなって思って」

サーリーは内心小躍りして話を聞いていた。

「サマリ、俺と一緒にマッカに行こう!」

勇気を振り絞ってそう伝えると、サマリは真面目な顔で答えた。

「勿論よ。怪我人を一人で帰らせるなんて事しないわ?私が責任もって送り届けるわね。これでも村の外にはよく出ているのよ」

サーリーは返答に詰まり、鈍感娘のサマリを見詰めた。

これまでにも何度か求婚めいた言葉を伝えたはずなのに、どれも気づいてくれない。サーリーが照れ隠しにハッキリ言わないのも悪いが、先程の様子からも自分が嫌われて居ないはずなのに、おかしい。

(親父、サマリは難敵だよ)

サーリーは心の中で天を仰いだ。

きっと、サマリは普通の生活や常識がわからないのだ。普通このくらいの年齢の女性が考える、オシャレや恋人や結婚等、諸々の事を初めから無いものだと諦めているとしか思えなかった。

                                 続く


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