サマリ、長老、村長、その長男のアンワル、ナージフの五人が、まず最初に神殿へと向かう事になった。
オアシスの端の草むらに、おびただしい数の魚が上がっており、日蝕の時の混乱が見て取れた。
神殿に近づくにつれ、禿げたように緑が減り、視界が広がっていく。そこは生き物のいない静謐な光景であり、村長達に驚愕が走った。
「なんだ、これは・・・」
サマリの「当日は危険だから避難が必要」との言葉を受けて村を総出で移動に踏み切ったが、信じてよかったと胸を撫で下ろす。実のところ本当は何もわかっていなかったのだと、村長は自分を恥じた。
オアシスをじっと見つめると、魚が優雅に泳ぐ姿がみえる。一部では水草が揺れる様子もうかがえる。それは見慣れたいつものオアシスの姿だ。
「おおぉ。。。」
小さいが、白く輝く神殿が目の前に建っている。それはまるで、今完成したばかりのような美しさ。
ナージフは、前方からこちら側へ伸びる足跡を見つけ、注意深く観察した後に長老達みんなに告げた。
「足跡は一匹だけのようですね。やはりあの魔物は、ここから外に出たと考えていいでしょう」
長老達は眉間に皺を寄せ、神殿を遠巻きに眺めた。
「また何かが湧く可能性は?」
アンワルも厳しい顔で、使い慣れない腰の武器に手をかける。
「神殿のゲートは、もう閉じられているはずよ。ソルはその向こうへ行ってしまったの」
異界への扉が果たしてどんなものなのか、確かめる事が決定した。
以前は倒れた柱の間を練って行くしかできなかった地下への入口は、ごく普通に祭壇の隣に設置されていた。五人は、しばし神と精霊に祈りを捧げると、その扉を恐る恐る開いた。
サマリは何度もここに探検に来ていたが、あまりにすんなり進めることに驚いていた。
長老は、言葉少なについてきていたが、流石に鏡の間まで来ると興奮を隠しきれない様子だ。長年の研究材料がここに揃っている。
「サマリ、私はこれから毎日ここに通うよ!」
長老は五人の中で誰よりも張り切っている。そんな父を、村長は苦笑いしながら「父さん、程々にして仕事も手伝って下さいよ」とたしなめる。
ナージフは神殿内の警戒を行っていたが、今のところ変わった様子はなかった。部屋は順に奥へ三つ程続いていて、最奥の少し広いこの場所が行き止まりだった。
サマリが満月の光とともに読み上げた譜は、今は持参した灯火で普通に読み上げる事が出来た。
「私のあの苦労はなんだったのかしら!」
すると、ふくれっ面で呟くサマリの頭を、アンワルが子供をあやす様に撫でた。
「サマリは凄いよな。俺も爺ちゃんに少し習ったけど半分も読めやしない」
神殿の壁文字には古代文字が多数含まれ、難解だ。
「サマリにはこれからも私の手伝いをしてもらわなければな!」
長老が嬉しそうに声をあげるのを、サマリは複雑そうな表情で黙って眺めるばかりだった。
自分はこれからどうすべきなのか、サマリは悩んでいた。この村で、この神殿を守りながらオアシスと共に生きていく事は容易い。長老はこれからも、サマリを助手として重宝してくれるだろう。数少ないながら、村長一家の子供達、特にアンワルやラウダは友達だ。
『鳥の子よ、何を悩む事などあろうか』
頭に直接響いて来る低い声に、サマリはハッとして顔を上げた。
続く