86.緑の魔物


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緑の魔物は、短剣を構え殺気を放つサマリを警戒しながらも、足元に転がりでた食べ物に気を取られた。両手は得物を持つ手を離さない。右前脚でサーリーを押さえつつ、左前脚で干し肉を突いて確認しようとしていた。

(背負った荷を外せば逃げられるかもしれない)

サーリーはまた身をよじったが、しっかり身体に括りつけた荷を、うつ伏せのまま解くのは困難だった。

サマリは手出し出来ずに一定の距離を保ったまま魔物と対峙する。

(どうしよう、どうしよう)

サマリは焦り、手をこまねいていた。魔物の正体も強さもわからない。実戦などした事もない。

(ナージル、助けて!)

思わず心の中で叫んだけれど、助けが来るはずもない。

サマリの足元から小さなつむじ風が起こり始めた。周囲の砂を撒き散らし、徐々に大きくなる。

サーリーはすぐにそれに気が付き、慌てて叫ぶ。

「サマリ!落ち着け!俺は大丈夫だからっ」

しかし、今度はそのサーリーの声に反応した緑の魔物が、興奮し始めた。

シャーーー!!と威嚇の声をあげると、サーリーを抑えていた脚を離したかと思うと、そのまま背中の荷に脚を振り下ろしたのだ。

「ぐぁっ!」

荷は脚の鉤爪によってバラバラに解かれ、サーリーはその衝撃で一瞬宙を舞い、地面へ投げ出された。日焼けのローブとその下のベストごと背中がパックリと裂かれ、鮮血が飛ぶのがサマリにも見えた。

「いやぁー!!!サーリー!!?」

次の瞬間、サマリの足元のつむじ風は威力を増し、身体を包み込むように巨大化していた。サマリの赤いローブが空へ吹き飛ぶ。魔物を排除したい気持ちだけがサマリを支配し始め、意識は虚ろに緑の魔物を捕らえていた。

許さない。

これ以上自分の大切な人を失ってなるものか。

ソルとの別れ、両親との死別、それらの思いも重なって、サマリの中で抑えが効かなくなっていた。

強風が辺りの小石を飛ばし砂嵐となり、上空へ立ち昇ると、方向を変えて緑の魔物に向かってかまいたちとなって襲いかかる。

『シャーーー!!』

驚いた魔物はたたらを踏んで、サーリーを放置したまま数歩後退した。かまいたちにやられて身体中が刃物で切られたように傷を追ったが、あくまでもそれは表面的なものだった。

助けたい対象であるはずのサーリーにも容赦なく砂嵐は襲いかかり、傷ついた背中や目に砂塵が吹き付ける。幸い日除けのローブを纏っていた為に、肌の露出は少なくまだ持ちこたえられそうだが、このままでは自分も危険だ。辛うじて腕は自由に動くので、出来る限りローブに身体を包み、目をつぶったまま、サーリーは叫んだ。

「サ、サマリ!!目を覚ませ!」

以前サマリの足元に風が舞い上がった時、サーリーは彼女の手を握って落ち着かせる事で、事なきを得た。しかし、今サーリーは背中に傷を負い、起き上がる事が出来ない。サマリの起こす風から自分を守るだけで精一杯だ。f:id:solz29dq10:20230209134239j:image

サーリーの声はサマリに届かなかった。我を忘れたサマリは、短剣を握りしめたまま緑の魔物へと走った。ナージフから急所の知識を教わっていたサマリだったが、この魔物は身体の構造が理解を超えている。

魔物は自分の得物を振りかぶり応戦した。少しでも当たれば、小さなサマリの身体など吹き飛んでしまうだろう。サマリは魔物の攻撃を巧みに避けながら、死角の背後に回り込み短剣を振るった。魔物の身体は硬く、短剣ではほとんど傷を付ける事が出来ない。

(あぁ、これじゃ埒が明かないわ)

緑の魔物からすると、サマリはチョロチョロと身体の周りを走り回り、少しずつ攻撃してくるイヤな敵であった。サマリが身に纏うかまいたちは衰えを知らず、短剣の攻撃が当たらない時も少しずつ身体を切り裂いて、魔物の身体中から青黒い体液が滲み始めた。

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こうなると最早、緑の魔物は体力との、サマリは気力との持久戦であった。

                                  続く


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