85.足跡の正体


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「隣の山」と呼んでいる場所迄、大人の足で約丸一日の距離。標高はさほど高くないが、周りに高い木々や岩は少なく、数時間歩くと目的のゴツゴツした山が見えてくる。

周りと同じような赤茶けた岩肌に、乾燥地特有の濃い緑の植生。しかし、その半分から上の方は禿げたようにむき出しの白っぽい岩壁へと変化する。この山の上部には塩が含まれており、動物達は急な斜面をものともせず、その塩を舐めにくる。塩に含まれるミネラルは体に大事なものだ。動物達は本能でそれを知っているのだ。

サマリも身の軽さと体力を武器に足場の悪い崖を登り、岩塩を採取して小遣い稼ぎをしたものだ。

「あの麓に、みんなが居るはずよ」

二人が並んで歩いていると、時折目の前を横切る砂漠の生き物達を見る事が出来る。

オアシスの村からはほぼ全ての生き物が逃げ去ってしまったが、そろそろこうして戻って来て貰いたいところだ。

「暑いな」

旅慣れないサーリーは少しバテ気味だった。太陽の日差しとゴツゴツした足場の悪い道無き道は、体力を奪う。

サマリは自分の分の水筒をサーリーに手渡す。

「少し休みましょう」

少し大きめの岩を背にすれば、日陰には困らない。二人は平らな場所を探して腰を下ろした。

「こんなに色んな事に巻き込んでしまったけれど、村の人達が戻ったら、私が必ず、サーリーをマッカに帰してあげるからねっ」

サマリは少しはしゃいだように言う。

「巻き込まれたなんて思ってないから、気にすんな?そもそも、俺のお節介から始まったんだからな」 

座り込んだまま笑うサーリーは、一口だけ水を含むと、サマリに水筒を返して寄越した。

「帰りの旅は、こんな感じの歩きだと思うから、今から覚悟しておいてよ?ふふふっ」

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サマリは早くもその帰路に想いを馳せた。サーリーといる時、サマリはいつも穏やかな優しい気持ちになれた。ナージルも兄のように接してくれたが傭兵の身に纏ったピリピリした緊張感が抜ける事は無かったから、こんな気持ちになった事はない。

少しの休息の後、二人は再び山の麓に向かって歩き始める。

きちんと目的地が目の前にそびえ、あと少しな事がわかるから気持ち的には楽である。そう、もうあと少しだ。

陽はだいぶ傾き、歩きやすくなってきていた。サマリは深々と被っていた赤い日除け代わりのローブの布を少し下ろし、金の髪をあらわにして前方を見つめた。

「ねぇ、サーリー、見て!あのかがり火!きっとナージル達よ!みんなあそこで待ってるんだわ」

サマリは興奮気味に声をあげると、少し開けた場所へ小走りに駆けて行き、二人の距離が開いた。

まだ辺りは明るいし、サーリーにはよくわからないが、サマリは目が良いのできっとそうなのだろう、と目を凝らす。注意は前方へ向けられていて、岩陰から大きな何かが襲いかかってくるなど思いもしなかった。

グァン!!

「うわぁぁぁ!?」

サーリーの叫び声に思わず振り向いたサマリが見たものは、背後から襲われうつ伏せになったサーリーの姿だった。大きな前脚に抑えられ身動きは取れないが、必死に抵抗しているのが見て取れた。緑色の、見た事もない四足の生き物がそこにいた。

それは村の広場を出る時に見た足跡の正体だった。

ラクダよりはるかに大きく、ソル本来の姿のルフ鳥よりは小さい。獰猛そうな上体は人の上半身を取ってつけた様だった。無頼漢のような男性の人の顔をしていて、ボサボサのたてがみを生やしている。獲物を狙う飢えた表情が恐ろしい。獣の足は四本あるのに、他にも人の手を持ち、その手には斧のような武器を握りしめてサマリを見詰めていた。

緑の魔物だ。これは人の世の生き物では無かった。サマリはとっさに腰の短剣を握りしめた。

「くっ、離せっ」

サーリーが力を込めて身体をよじると、背負っていた袋が破けて、中から干し肉等の旅の食料がこぼれ落ちた。すると、魔物はそれに気を取られてサーリーを抑え込んでいた脚の力を緩めた。

                              続く

 


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