52.リーテの後悔


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昔。イフリーテが何の用事だったか空を飛んでいた時。偶然、独りぼっちの白いロック鳥と出会った。キラキラ光るものが好きな一匹と一人が意気投合するのに時間はかからなかった。火と風の属性の違いや、上位精霊とその眷族という違いを乗り越えて長い時間を友として付き合ってきた。

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リヤハが長く留守にするからと、ソルがオアシスの神殿奥をナワバリにしたのは百年と少し前。そこはソルにとって居心地の良い場所だったようだ。

リヤハが居ないのをいいことに、別属性であるイフリーテも、数回巣を訪れたことがあった。その頃のソルは、オアシスの村の家畜を襲う村人に恐れられる存在だった。ソルの他にも神聖な生き物や、あるいは魔物が沢山この世に存在し、精霊の姿を見る能力のある人間も少なくなかった。

それから少し後、砂漠では珍しく強い地震が起こった。土の精霊の怒りが大地を揺るがした事はわかったが、イフリーテはそれに干渉していない。

気がつくと、オアシスの村の神殿は崩壊し、ソルは何かを思い悩むようになり、人にあまり姿を見せなくなった。

十八年前、それは炎の精霊にとっては数日前くらいの感覚。まだロック鳥としては若いソルが、初めて抱卵を始めた。夫という番(つがい)も居ないのに卵を産んで、ソルはそれを一生懸命に暖めていた。イフリーテはそれとなく真実を告げようとしたが、ソルが愛情を持って卵を抱く姿を見る度に、言葉を飲み込んで帰る事になった。

数ヶ月の間、『その卵は孵らない』その一言が言えずに、イフリーテはずっと後悔していた。

イフリーテ自身も雑事に追われ、ソルが悲しむ姿を見るのが辛くて、彼女の足も少しずつ神殿から遠のいていった。

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そして、次に神殿奥の巣を訪れた時、イフリーテはバラバラに乾燥して割れた卵の殻の残骸を見る羽目になる。肝心の友の姿が無いので気配を探ると、なんと友は小さな黄色いインコに姿を変えて、神殿の奥で幼い人間の子供を育てていた。

『リーテちゃん、ピピ!見てみて、アタチの子よ!可愛いでしょう?ピピ!キラキラなのよ』

ソルは、訪れたイフリーテに自分の娘をみせた。薄い金の髪の娘は、ニコニコと笑ってソルを抱きしめる。視線は虚空を彷徨うが、イフリーテの姿を認識する事は出来なかったようだ。

『アタチ、しばらく子育てに忙しいの!だから遊べないの!ピピ!』

サマリの掌の中の友は、満足気にイフリーテに向かってそう告げた。

どうしてこうなってしまったんだろう、鳥が人を育てるだなんて。こんな事はおかしい。そう思い、イフリーテは『その子を人の中で育てないと、言葉も文字もわからない子になってしまうわよ』とその場を逃げるように立ち去った。人の一生の50年など、精霊とロック鳥の寿命から見れば本当に短い。イフリーテは、そのうち友が子育てに飽きることを期待した。その後しばらく会う事は無く、十八年が過ぎたのだ。

 

イフリーテがサマリの願いを聞き入れたのは、全て自分の後悔への免罪符のようなものだった。あの時友に寄り添えなかった自分を、許せなかったから。そして、友が今でも、何の疑いも無く自分を頼って来てくれた事に報いたかったから。

 

『キラキラキラキラ金の髪、ピピ!サマリちゃんは、良い子ね。ピピピ!アタチの宝物よ』

逃げ出した部屋から友の幸せそうに囀る声が聞こえてくる。

自分がしようとしている事は、間違っているのだろうか?秘術を見せると約束をした時、確かに娘は、自分の条件を呑んだのだ。

         続く


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