44.炎のその先


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サマリと、ソルと、どちらの言葉が聞き入れられたのかわからないが、すぐに炎の動きに変化があった。

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目の前の景色が開けて、崖の代わりに炎のカーテンが現れる。

「道じゃないじゃない!!」

それは、サマリが期待していないものではなかった。他に誰も居ないのを良い事に、形の良い眉を顰めて思い切り大きな声で叫ぶ。

此処に来てから、サマリは調子が狂いっぱなしだ。村では、なんでも出来る物分かりの良いお利口さんで通ってきたのに。

すると、ソルは迷わず炎のカーテンに飛び込み、向こう側からサマリを呼んだ。

『ピピ!サマリちゃん!こっちこっち!』

ためらわずにはいられないが、勇気を出さなければ、何も始まらない。ソルが、今この炎は平気な事を証明してくれたではないか。

(うわーん、でもでも!私だけ真っ黒コゲになったらどうしよう!)

そう思いながらも、サマリは目を瞑り、立ち上る炎に自ら飛び込んだ。熱くない。そっと目をあけ、目の前で待つソルを胸に抱きしめる。

『サマリちゃん、ピピ、偉いわ!良い子良い子ね!』

ソルはそう言って、またゴシゴシと頭を擦り付ける。フワッとした羽毛がサマリの頬を撫でてこそばゆい。

「怖かった・・・」

珍しく弱音を吐いてしまったサマリを、ソルは元気な声ではげました。

『大丈夫よ!ピピ!アタチがいるもの!』

再びサマリの目の前の景色は入れ替わる。

そこは豪奢で煌びやかな部屋だった。

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色鮮やかなソファ、天蓋付きのベット、大きなテーブルには所狭しと並べられた料理。トカゲの串焼きからは湯気が立ち昇り、スープ壺の中から良い匂いがする。見たこともないフルーツの盛り合わせ。

思わずサマリは、唾を呑み込んだ。

しかし、緊張は続く。今の今まで、そこに誰かが居たような気配を感じていた。

「誰かいませんかぁ?」

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見たこともない調度に興味を惹かれ、ウロウロと部屋を覗き込む。

ソルはというと、テーブルの端で毛繕いをしながらサマリを見守っている。

『ピピッ!こんな熱いモノ食べられないわ!ピーッ!肉は生に限るのよ!ピピッ』

おそるおそる、サマリは部屋を見学する。壁や、棚に手を触れようとそっと腕を伸ばしては、軽く頭を振って引っ込める。その繰り返しだ。紫色の瞳は興味津々に見開いて、上へ下へと忙しい。

『なかなか、思慮深い子だね。むやみに他人の敷地を荒らさない分別があるようだ。黄金にも、食べ物にも興味を示さず、調度類を見ている所も気に入った。娘よ、よくぞここまで辿り着いた』

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背後から不意に声がかかり、サマリはハッとして振り向いた。

いつのまにか視線の先に、艶然と微笑む美しい女性の姿があった。

「あ・・・!」

そのたたずまい、荘厳さ、他者を圧倒する気配は、イフリーテに違いなかった。

サマリは慌ててペコリとお辞儀をした。

いったい何から話を切り出せばいいのだろう。

下げた頭をゆっくりと上げ、深呼吸をする。

「あの、私、サマリといいます。その・・」

しどろもどろになりながら、サマリは目を泳がせる。視界の端にパタパタとソルが飛んでくるのが見え、そっと息を吐いた。

「風の精霊リヤハ様の使いとして、まかりこしました。どうか私の話を聞いてください」

炎の精霊は、その言葉に黙ってうなづいた。それから、サマリの肩に止まったソルをじっと見つめて、呆れたように眉尻を上げる。

その表情の意味が気になったが、先ずは自分が為すべきことをしなければならない。

サマリはもう一度深呼吸をし、訴えを始めた。

           🌹

イフリーテの秘宝を、リヤハが求めている。

自分の生まれ育ったオアシスの村の水源を枯らさぬよう、どうか私の願いを叶えて欲しい。

神殿の奥で、イフリーテに捧げる譜を調べてきたから、どうか聴いて欲しい。

そんな事を震える声で一気に伝えた。

炎の精霊は、その全てを黙って聞いていた。そして聞き終わってから少し考え込む。

その沈黙の流れる時間は、サマリにとって今後の人生を左右する恐ろしい決断が迫る刻でもあった。


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🌹イフリーテの秘宝再開しました。

拙い小説ですが時折お付き合いください🌹