『ピピ!サマリちゃんの言う通り、キラキラはあの袋に入れたわ!ピピッ!それでね!ピピピ!隣の山に隠してきたの!ピピッ、前にサマリちゃんと探検に行った所よ』
サマリの周りをグルグル飛び回りながら、ソルは得意げに囀った。
「ありがとう、ソル。水源が元に戻ったら、取り戻しに行きましょう?今回は何があるかわからないから・・」
サマリはソルの絶え間ない話を聞きながら夜道を歩く。一人と一羽が、ようやく思う存分話せる時間だ。
実はサマリも、万が一の事を考えてソルの所有物を大移動させていた。因みに、サマリの財産は身一つ。身に付けている産みの親の腕輪とネックレス、ナージフから貰った短剣以外に何もない。家も、今回の事で全て壊されてしまった。
ソルはキラキラするものが大好きだ。いつのまに集めたやら、巣の中は抱えきれない宝の山だ。恐らく気が遠くなる程の価値がある。
サマリとサーリーを背中に乗せて戻ってきた時、ソルはロック鳥の大きな姿のまま巣へ座り込んだので、このお宝の在りかをサーリーに知られる事は無かった。サーリーも、あの時周りに気を配る余裕など無かったはずだ。
ソルは時折、サマリにそれらをくれようとするが、毎回断ってきた。金の塊や装飾品など、腹の足しにならないのだ。そのまま持っていても何の役にも立たないし、盗みの疑いをかけられるだけだ。そもそもソルは何処から持ってきたのだろう。あまり訊きたくない。ただ、そのまま土に埋もれさせるのも勿体無いと思うくらいの欲なら、サマリも持ち合わせていた。その為、此処に辿り着いてからすぐに、応急処置として密かな移動を頼んでおいたのだ。
『リヤハ様とイフリーテ様が術に失敗する筈が無いわ!ピーピッピッ!』
ソルはいたって気楽だが、サマリは精霊や神鳥の「大丈夫」など信じていなかった。
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その日の夜、サマリは月明かりに目を凝らし、寝床のすぐ近くの、傾いた柱に刻まれている古代文字を眺めていた。
(そう、そうよ。これは『ルナ』じゃくて『ルフ』なのよ。私、間違ってた。根本的に全て間違ってたわ)
炎の神殿を出て、月の姫に言われた事を思い出す。姫は、自分を「ルフの娘」と呼んだ。
柱に手を伸ばし、字をなぞる。
サマリが頭をうなだれると、金の髪がサラリと顔を覆い隠した。しかし、その隠れた髪の下の顔は、歓喜に沸いていた。
サマリは今まで分からなかった文字の羅列が、急に文章となって頭に入ってくるようになったのだ。
(私、ほんとにバカね。ずっと勘違いしてたわ。これでようやく、意味が繋がる)
小さい頃に間違えて覚えた字を、正しく一文字入れ替えていくと、全て意味のある言葉に置き変わっていく。
(ナージルのせいよっ!ふふふ)
何度も訂正されながら、何故か頑なに間違ったままの呼び方でナージフと交流してきたサマリは、ようやく一つの答えに辿り着こうとしていた。
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その時、オアシスの村まで後二日程の距離まできたナージフとイブンは、その日の寝床を作って焚き火を始めていた。
荷馬車が二台。そこに積まれた多くの食糧や布、そしてそれを運ぶラクダが予備を含めて三頭。夜は早めに切り上げて、早朝を行くのが砂漠の旅だ。
「へっくし!」
ナージフは火の前で干し肉を炙りながらクシャミをした。
「あー、隊長!俺の肉にきったないものかけないでくださいよぉ?」
イブンの軽口にナージフは負けじと応える。
「誰かが俺の噂をしてんだよ!」
イブンは、もう一本別の串に刺した干し肉をナージフに渡し、代わりに今焼き上がったものを受け取って食いつく。
「何事もなければ明後日には着くからな。イブン、油断するなよ?」
イブンは肉を頬張りながら軽く手を挙げて応えた。パチパチと炎が踊り、ナージフの顔を照らす。
(サマリ、待ってろよ)
はやる気持ちを抑えながら、ナージフは自分に言い聞かせる。今はしっかりと休息を取って明日の旅路に備えるのだ。
月明かりの強い夜は、マモノの襲撃もないだろう。ナージフは「先に行く」と言ったサマリの顔を思い浮かべながら、しばしの間、目を閉じた。
続く