深くお辞儀をしたサマリは、再び顔を上げ、しっかりイフリーテの顔を見つめた。
こちらを見返すイフリーテの瞳の奥の焔が、品定めするかのように揺れている。
「お願い・・・します」
イフリーテの【とある提案】を受け入れる事を条件に、この時サマリの願いを叶えて貰う約束が成立したのだ。
(勝手に決めてごめん)
サマリは心の中で呟く。
『悪くない話よ。後で、詳しく話をするゆえ。そうすれば、納得も出来よう』
と、イフリーテは穏やかな顔でうなづいた。
2人がチラリとソルの様子を伺うと、ソルはパタパタと飛んで来てサマリの肩に止まった。
『ピピッ!なんのお話!』
ソルは小さな黄色い頭を左右に振って、話の仲間に入りたがった。
『神殿周囲のみに力が行き渡るように、手を貸そうと言う話をしていた。一月後に、日蝕がある。私の炎が最も輝く日。その日ならば、より正確に力を使える』
サマリは感心してイフリーテを見つめ直した。
日蝕と言うものをサマリは長老の話の中でしか知らない。その不思議で恐ろしいものが来る事を、炎の精霊は予知するのだろうか。
疑問を正直に口にすると、イフリーテは可笑そうに笑って教えてくれた。
『こんなものは、この世界の約束事で予知ではなく予測よ。ここ(炎)の神殿の神官達ならば、暦というものを持っていて、日蝕の事もきっと知っているでしょう。なかなか下々の者に教えたがらないケチな者達よ』
自分を祀ってくれる神官達に対してぞんざいな口振りだ。
『そうね、私のお遊びは、蜃気楼を作る事くらいかしら?』
それもサマリは見た事が無かった。小さい頃から語ってくれた長老の話は、多岐に渡りサマリの知識を増やしてくれたが、全ては想像。幻の街が近くに見えるなんて、本当に夢の話だ。それをイフリーテが作り出すと言う。知識欲が頭をもたげて、心が弾む。ずっとイフリーテの色んな話を聞いていたいと思えた。
『けれど、空間の揺らぎがあった時の責任は持てぬゆえ、村人をどうしたものか』
イフリーテは小首を傾げる。
『出来ればその日は、村に誰も居ない方が良い』
神殿が一夜にして元に戻るだなんて誰も信じないだろう。しかも、村の誰一人として望んでいない事だ。危ないから避難して欲しいと頼んでも、村には小さな子供も病人も、動けない老人もいる。いくら長老が命令したとしても、全員は無理では無いだろうか。一時避難のような、村人の大移動をさせるにはどうしたら良いのか、すぐには答えが出せなかった。
あの月の姫のようなカリスマ性と、巫女の神託でも有れば別だが。
「それだわ!!」
サマリは急に思いついた考えを、イフリーテとソルに説明し始めた。イフリーテは面白そうに話に耳を傾け、ソルはいつものように時折囀って口を挟みながら、毛繕いを始めた。
続く