【猫探し】scene5🐈‍⬛ピノ魔界探偵社より


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その白髪の老人は、立ち上がる時に少し右足を庇っていた。 着ているブラウンのジャケットは小ざっぱりとした質の良いもので、足元の靴も綺麗に磨かれている。

老人はピノにお辞儀を返し、名乗った。

「私はランディス。美術品収集家、と言ったところですよ」

しかし、ピノは即座にそれを否定した。

「美術品収集家だって?・・貴方から漂う油絵具の匂い、右手中指のペンだこ・・。恐らく貴方は、画家か贋作師。だが、この出会いの場合は後者だ」

エルガーは顔色を変え、ランディスを凝視した。 自分の正体がバレたというのに、ランディスピノの返答に満足気に頷き、自らもそう名乗った。

「さすが探偵ですね。その通り、私は贋作師です」

エルガーは、ランディスに迫り静かな声で問い詰める。

「お前が窃盗団にネコ拐いと絵画のすり替えを依頼した犯人なんだな?」

美術館の中で人目もある為、かなり抑えているが今にも手をあげそうな勢いだ。

「さぁ、どうでしょう」 ランディスエルガーの様子に萎縮することもなく、顔を背け薄ら笑いで応えた。 エルガーは更に熱を帯び、

「事件の全容を知らなければ、ネコと絵画すり替えの事は知り得ない。『どうでしょう』ではなく『何の事でしょう』と返答すべきだな」

と言い募った。

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一方ピノは落ち着いていて、エルガーの胸の前に手をかざし、ランディスとの間にそっと割って入った。 そこで少し気持ちを落ち着かせたエルガーは、ランディスに警戒を払いながらピノに尋ねた。

「何故ハリソン邸にある筈の、猫のいない『夜と猫』つまり『夜』が展示してあるんだ? それに、何故ここに犯人が居るとわかったんだ?」 ピノは、右の指を2本立て、エルガーに答えた。

「この絵は、美術館とハリソン邸に2枚あるのさ。どちらかが本物で、どちらかが贋作だ」

ピノはチラリとランディスの顔を見たが、そこからは何の感情も汲み取れなかった。ランディスは二人の会話を聞きながら、視線は常に『夜』を見ていた。

「そして、美術館職員に聞いたが、このご老人は『夜』を眺めるのをライフワークとしているそうだ。そこの長椅子が指定席。」

指さされ、ランディスはようやく『夜』から視線を外してピノを見た。

「犯人は犯行現場へ戻ると言うだろ?エルの得たネコ拐いと絵画すり替え依頼者の容姿とも一致する。これらから推理するに、今ここに飾られている『夜』は贋作。自分が描いた贋作が美術館に飾られているのを眺めて、承認欲求を満たしているのさ」

エルガーは驚きを隠せない。侮蔑の眼差しでランディスを睨みつける。 ピノはなおも言葉を続けた。

「二枚共贋作という可能性も無くはないが、整った身なりを見るに無駄な事はしない主義と取れる。恐らく今ハリソン邸にある絵画の方が、二枚一組の片割れ、つまり本物の『夜』だ。」

ランディスは目の前についたステッキに両手を重ね、小刻みに震えている。

「素晴らしい・・素晴らしい・・」 

この震えは歓喜なのか。

「いかにも、ここに飾られている『夜』は私が作成した贋作だよ」


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ランディスは俯き、語り始めた。

「私はねぇ、若い頃は画家になりたかった。才能も技量も誰よりあったのに、私の作品は評価されなかった。評価されるのはいつだって、美術品収集家にコネがある裕福な環境の者か、自身でコネを作れる筆先より口先が達者な者ばかり!」

エルガーは何か言ってやろうと口を開きかけたが、それをピノが真剣な眼差しで止め、黒い瞳を伏せて被りを振った。

「私の生活はみるみるうちに地に落ちた。そんな時だ・・。贋作の制作依頼が来たのは」

ランディスはそこまで話すと、立っているのに疲れたのか長椅子に座り直した。

「私は生活の為に贋作を描き始めた。すると、どうだ!皆が私の作品を評価し始めた!」

自分の右の手を見つめ、嬉しそうに語るランディスに、ピノは口を挟んだ。

「それは所詮、他人の作品を真似て描いた贋作。貴方自身の作品が評価された訳では決してない」

するとランディスは静かに笑う。

「絵画には必ず作者の魂が現れる。例え贋作だろうと、私の作品に間違いない。 現にこの『夜』も多くの人を魅了してきた!私の自信作だよ」

ランディスは再び底光りした眼で『夜』を眺めた。

「素晴らしい贋作はオリジナルをも凌駕する」  ランディスの狂気を感じ取ったエルガーは、ピノの手を払い除け一歩前へ出た。

「御託はわかった爺さん!後は留置所で話せよ!」

「待て、エル」

なおも止めるピノに、エルガーは不服だ。

「何故止める?贋作作成を自供したんだぞ?」 ピノは悔しそうに顔を歪め、答えた。

「贋作は、作成する事自体は罪にならないんだ。その贋作を使って人を騙し、金銭を受け取れば詐欺に当たるがね」

一瞬戸惑ったエルガーだったが、彼の正義感は引き下がる事を許さなかった。

「過去の贋作では金銭を受け取っている筈だ!」

ランディスは静かに見上げる。

「既に時効だよ。もちろん、贋作だと見破られ訴えを起こされた作品は無いがね。 おかげで今も資金には困らず、美術品の収集活動が出来る」

諦めの悪いエルガーが畳み掛ける。

「ネコ拐いと、絵画すり替え依頼の容疑で逮捕は出来る!」

ピノは、そっとエルガーの肩に手を置いて首を振った。

「ハリソンさんは依頼で、絵画の真相と一連の不可解な出来事の真実を明かす事も望まれた。もしこの老人が逮捕されてしまえば、真相は闇の中だ」

ランディスは暗い笑みを浮かべながら、呟く。 「罪があるとすれば、それは本物と贋作を見分けられない学芸員と、贋作で入場料を取っている美術館の方さ」

エルガーは苛立ちを隠せない。 ランディスは胸ポケットにしまってあった手帳にサラサラと何処かの住所と日時を書くと、「面白いものを見せよう」と言ってメモを一枚破ってピノに渡した。

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その渡されたメモを二人が覗き込んでいるうちに、ランディスはゆっくり立ち上がり、だんだん客の増えてきた美術館の人混みの中に紛れて消えた。       

     🐈‍⬛,,,,,to be continue


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   🌹本日のサービスショット🌹f:id:solz29dq10:20220326152624j:image

ピノは紅茶派🫖

エルガーはコーヒー派☕️
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     🌹前回までのお話🌹

scene1

https://solz29dq10.hatenablog.com/entry/2022/03/28/052222

scene2

https://solz29dq10.hatenablog.com/entry/2022/03/30/052316

scene3

https://solz29dq10.hatenablog.com/entry/2022/03/31/051818

scene4

https://solz29dq10.hatenablog.com/entry/2022/04/01/052344

 

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次回はあさって、月曜日

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