【猫探し】scene1🐈‍⬛ピノ魔界探偵社より

 


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     ピノ魔界探偵社

    『猫探し』

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             原作 ケミン

             執筆 ソルジー

             監修 すいか

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ここは砂の都ファラザード。
魔界で最も自由で活気あふれる砂漠の不夜城だ。
そのファラザードの街の石畳に、規則正しい硬いブーツの踵の音が響いた。
朝から強く照りつける日差しと潮の匂いに似つかわしくない、黒革のコート。
オフィサーキャップを目深に被り、右眼は眼帯で覆われている。
しかし、そこから覗く顔立ちは整っており、精悍で闊達な銀髪の若い男性である。

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彼は、淡い青とオレンジの幾何学模様の階段を二段跳びに上り、左肩に海を覗く廊下の突き当たりに辿り着いた。比較的大きな扉には、小さな看板がぶら下がっている。
ピノ魔界探偵社』
ここが彼の職場だ。

いつものように扉を開け奥へ進もうとした彼は、事務所に一歩入った所で障害物を踏みそうになり立ち止まる。
所狭しと広がった本、本、本。飲み掛けの紅茶の入ったティーカップが無造作にあちこちに置かれている。
床には新たに来た荷物なのか、見たことのない段ボール。脱ぎ散らかしたシャツまで。
「やぁ、エルガー君、おはよう!」
高く積み上がった本の隙間から、爽やかな声がする。
そこからひょこっと顔を出したのは、エルガーよりももう少し若い、深いローズ色の髪の優しい顔立ちの男性。
にこやかにティーカップを掲げ、黒い瞳エルガーに気取った挨拶をした。
「やぁ、じゃねぇ・・。ピノ、この探偵社は竜巻でも通ったのか?」

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ピノは、呆れたエルガーのその問いを華麗にスルーして本の中から絵画集を手に取り、楽しそうに自分の目の前の壁を指差した。
「実はね、新しくここに絵画を飾ろうと思ってね。・・さぁ、エルも手伝ってくれ!」

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そう言われてエルガーが机の周りを見渡すと、今日散らばっているのはどれも絵画集などの絵画にまつわる書籍だ。
中には「マデサゴーラ全集」なんてものもある。
「絵画を増やす前に物を片付けろ!ピノ!」
長年の生活習慣が身に染みているのか、元からの性格か、エルガーには潔癖な面がある。物事は真っ直ぐ、規則正しくがモットー。ピノとは短いとは言えない付き合いだが、この生活感漂う散らかし放題の事務所はエルガーの悩みの種だ。毎度キレ散らかして、結局最後に掃除するのはエルガーなのである。
「どんな絵にしようかなぁ。心躍るなぁ!」

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ピノエルガーのお小言など全く聞いちゃいない。天才肌というか、子供がそのまま大人になったというか、とにかく自分に正直で忠実な青年なのである。
エルガーは、しかめ面で足元の段ボールを脇に寄せ、脱ぎ捨てられたピノの黒いコートを屈んで拾った。ブツブツ言いながらも行動は丁寧で、コートの埃をサッと払うと、慣れた手つきで軽くたたみ、ソファの背もたれに掛けた。
「集中すると周りが見えなくなるのは悪い癖だぞ!ピノ・ガール!」
すると、ピノは夢中になって絵画集をめくっていた手をようやく止め、エルガーを睨みつけた。
「ああ!フルネームは呼ぶなと何度も!これだから美術品の素晴らしさも分からない、お堅い元バルディスタ軍人は・・・」
嫌味の応酬のようなやり取りは毎朝の恒例行事みたいなものだ。
全く性格の違う二人は、何故か気があった。お互い足りない部分を補い合い、様々な事件を解決してきた探偵コンビである。

 

「あの、あの、すみません・・」
か細い女性の声が、扉の方から聞こえて来た。
エルガーにどやされながら、ようやく本を揃え始めたピノだったが、なんとか片付けから逃れたくて、すぐにそれに反応する。
「ほら、依頼人様の登場だ!」
ドン!と、手に持っていた数冊の本を無造作に机に戻した為、せっかくエルガーが積み上げた本が雪崩れを起こしそうになる。
「うわっ、ちょっ!!?」
それを食い止めようとエルガーは慌てて机にしがみつく。
そんな相棒の脇をにこやかに通り過ぎ、床に散らばる荷物をステップのような足捌きで跨いで、ピノは玄関の客を出迎えようと扉を開けた。

(いない?)
一瞬、そう思って動きを止めた所、足元から
『ニャア〜』とネコの鳴き声。
思わず下を向くと、そこには黒ネコを重そうに抱えてた幼い魔族の少女が立っていた。大きな茶色の瞳が、ピノを見上げている。

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ピノはいつもの癖で、一瞬で少女の上から下まで眺め回した。
流行りの過ぎた浅葱色の地味なドレスに、かろうじて可愛らしい大きなリボンが付いていた。何処かの下級貴族だろうか。
(子供・・。このまま見なかった事にして扉を閉めても良いかな)
露骨に引き攣った笑いを浮かべ、ピノは声も掛けずに少女と見つめ合う。

そこへようやく、机の本の雪崩を阻止したエルガーがやって来て、扉のノブを掴んだままのピノの肩をぐいっと奥へ押しやり、自分が対応を始めた。
「やぁ、お嬢さん。ピノ探偵社に何か御用かな?」
エルガーは営業スマイルで近づき、膝を曲げて少女の顔の近くまで視線を落とした。しかし、眼帯をしたハード系ファッションの男性が目の前に現れて、少女は怯えて顔をしかめ、両目に涙を浮かべ始めた。
それでもなんとか逃げずに踏みとどまっている所をみると、少女も明らかな願いがあってここに来たのだろう。半べそをかきながら、抱いていた黒ネコをエルガーの目の前に差し出した。

「この子が・・逃げちゃって・・」
こちらに顔を向けられた黒ネコは、印象的な金の瞳をしていた。
『ニャァ〜』
黒ネコはのんびりとした鳴き声で、エルガーに挨拶したように見えた。
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「あ〜、エルの顔が怖いからお嬢さんを泣かせた〜」
背後からピノが冷やかすように声をかけた。
エルガーは、黒ネコの頭を優しく撫でて少女に微笑むと、そのまま立ち上がり、ピノの方に180度向き直った。
ピノに向けた顔は鬼の形相で、こめかみを震わせながら少女に聞こえないよう小さな声で
「お前の態度が!子供に!伝わるんだよ!大人気ない!」
と毒付いた。
しかし、ピノエルガーの怒りなどどこ吹く風。深刻な顔をして持論を語り始める。
「子供は苦手だ。何をするか予測出来ない。まだ窃盗犯の方が可愛い・・もがもが(こら、やめろよ)」
最後はエルガーに口を塞がれてしまったが、反省する気は無さそうだ。
昔は自分も子供だった事を忘れてしまったに違いない。
「まったく・・、子供の窃盗犯が出ない事を願うぜ?」
エルガーはため息混じりに呟いた。

少女が言葉に詰まって俯いてしまった為、二人が対応に苦慮していると、ようやく父親らしき大人が廊下の向こうから小走りにやってきた。
「こら、先に行ってはいけないと言ったろう?」
と、男性が心配そうに少女に声をかけると、少女はようやく笑顔になった。ネコを抱く手を片手に持ち替え、そっと脇に立った父親の手を握った。
大人の依頼人の登場にピノエルガーは安堵の表情を浮かべ、乱雑な事務所へと依頼人を招き入れた。
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なんとか人が座れるようになった応接室。
暖炉の火がパチパチと音を立てる。
四人と一匹はソファに向かい合うように座った。
「それで、御用件をお伺いしてもよろしいですか?」
先に話を切り出したのはエルガー
ピノはじっと二人と黒ネコの様子を眺めている。
「失礼、名乗るのが遅れました。私はハリソン、こっちは娘のコゼット」
ハリソンは、隣で大人しく座っている娘の頭を撫でながら、そう名乗った。
娘同様、流行遅れのスーツを着ていた。清潔にしているが、そのスーツには所々皺が寄っていて、疲れた表情と相まって老けて見えた。
「実は、一ヶ月程前に奇妙な事が起きまして」
ハリソンは、俯き加減で不安そうに話し出した。
「我が家はゼクレス魔道国の下級貴族でして、代々コントレート作の『夜と猫』という名の絵画が伝わっております」
作者の名前を聞くと、ピノはピクッと眉を動かした。
「夜を背景に、漆黒の猫が描かれた油絵です」
ハリソンはちらっと娘の隣に寝そべっている黒ネコに視線を移した。黒ネコは寛いだ様子だったが、視線を感じたのか、ストンッとソファを飛び降りて、ピノの目の前を通り過ぎ、奥のエルガーの元へ移動した。
「お恥ずかしながら私は絵画には疎く、価値や詳細は存じません。しかし、我が家で代々とても大事にされ、家計が苦しくとも手放さずにきた絵です」
ふぅ、とハリソンは一息付くと、話を続けた。
娘のコゼットが心配そうに父親を見上げている。

話が始まると、ピノは応接用のソファからそっと立ち上がり、そばの自分のデスクへ移動した。
「ある晩のことです。ふと『夜と猫』に目をやると、絵画の前で、絵画に描かれたのとそっくりな黒ネコが寛いでいるのです。絵の方は、と言いますと、描かれた猫は居らず、背景の夜が広がるばかりで・・」
信じられないでしょうが本当なのです、とハリソンはピノエルガーを見比べた。
ピノは右手を顎に当てたまま、呟くように確認した。
「つまり、このネコが絵画から逃げ出したと?」
すると、エルガーの足元に擦り寄っていた黒ネコが、相槌を打つ様に『ニャァ〜』と鳴いた。
「おねがいします!このネコちゃんを絵に戻してあげて!」
コゼットは真剣な面持ちでピノに懇願した。
「私も、大事な絵を元に戻して欲しいのです。このひと月、ネコが絵に戻るかと期待しましたがそのままでした。相談した警察も盗難では無いと動いてくれなかった。どうか、この絵画の真相と一連の不可解な出来事の真実を調査してください」
ハリソンもソファから立ち上がり、お辞儀をした。
ピノは考え込んだまま答えない。

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三人とも考え込むピノを見つめ、沈黙が続いた。
古い柱時計の時を刻む音だけが部屋に降り積もる。いつの間にか、黒ネコは勝手にエルガーの膝の上で寛ぎ始めていた。 

 

「この名探偵ピノに任せなさい!」
ようやく静寂が破られた。
ピノはソファへと戻り、手を伸ばしてコゼットの頭を撫でた。
エルガーは、子供に対して優しい対応をするピノを見て我にかえり、
「お任せください!必ずや事件解決を」
と、口添えする。
ハリソンとコゼットは、安堵の表情を浮かべた。
異常にやる気を見せるピノに違和感を感じながら、エルガーはコゼットに黒ネコを戻した。黒ネコは大人しく両腕に抱かれ『ニャァ〜〜』と一声鳴いた。

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「・・えぇ。はい、そうです。後ほど伺いますので」
ハリソンとの事務的なやり取りの後、エルガーは玄関先で依頼人を見送った。
振り向くと、ピノが子供のように目を輝かせて何かを考えている。
(今回の依頼は、かなりお気に召したらしいな)
エルガーは、ふっと笑って扉を閉めた。
ピノが依頼を受ける決め手は、自分が興味を持ったかどうかの一点のみ。
いくら金を積まれようと、つまらないと感じたらそれまでなのだ。
選り好みをするから、いつも二人の生活はカツカツだ。
ピノは部屋に戻ってきた相棒の胸に、笑顔でジャケットを押しつける。
エルガー君、そうと決まれば早速現場検証だ!さぁ、行ってきたまえ!」
エルガーは反射的に左手でジャケットを抑える。
「お前も行くんだよ!引き篭もり体質!さっきあの子に啖呵切ってたろ?」
同時に、無意識に駆り出した右手の一発が正確に鳩尾に入ってしまい、ピノはお腹を抱えてその場にうずくまる。
「あ、わりぃ・・」
半泣きでピノが呟いた。
「おそと・・・怖い」

     🐈‍⬛,,,,,to be continue


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    🌹本日のサービスショット🌹

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くつろぐ2人?

次回はプレイベ報告を挟む予定の為、二日後!

お楽しみに!!