【猫探し】scene3🐈‍⬛ピノ魔界探偵社より


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ベラストル家を中心に、幾つかの由緒正しき貴族の家が立ち並ぶゼクレス魔導国貴族住宅街。
エルガーは、住宅街手前の大きな門の所までやってきた。立派な石畳の道が、奥へ続いている。

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「聞きたいことがあるのですが」
エルガーはその門に駐在する警備兵に近づき、声をかけた。一瞬警備兵達に緊張が走ったが、エルガーの顔を見た彼らはすぐに顔を高揚させて敬礼した。
「そ、その眼帯は!バルディスタ軍のエルガー殿?お会い出来て光栄です!貴殿の武勇は『敵国ながら尊敬に値する』と我々の間でも語り草であります!」
数人の警備兵達が持ち場を離れて集まってくる。
エルガーバツが悪そうに答えた。
「やめてくれよ。今は退役した身だし、死に損なっただけさ」
エルガーが一ヶ月程前の猫誘拐事件の情報を訊ねると、彼らの一人が、ある貴族の屋敷を教えてくれた。

眩しい程の尊敬の眼差しに見送られ、エルガーは門の奥へ足を運んだ。教えてもらった貴族の屋敷では、意外にもすんなりと豪奢な応接室へ通された。暇を持て余した妙齢の婦人がエルガーの所へとやって来て、いかに自分が大切にしているネコがいなくて寂しくて大変なのかを切々と訴えた。

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(そんな大変そうにも見えないがねぇ)
ミントとストロベリーの髪、その髪色と同じに仕立てたロングドレス、そこから覗く大粒のネックレス。どれも贅沢な逸品で全身を飾りたてた姿を、エルガーは何の感慨も無く不躾に眺めた。
それよりも、エルガーは目の前に出されたコーヒーが美味い、と満足気だ。
「それはアストルティアのジャイラ密林産コーヒーですわ」
と、婦人が教えてくれた。こんな美味いコーヒーが飲めるなら、愚痴の1つや2つくらいなら聴いてやらんでもない、と思いながら舌鼓を打つ。
眼帯と服装のせいで強面に見えるエルガーだが、元々は容姿端麗。口の端に笑みを浮かべた様子を見るに、婦人は少し頬を赤らめ、ネコの話もエスカレートする。エルガーが殆ど何も聞かずとも、充分な情報が得られたようだ。
ネコの容姿・状況から、あの黒ネコはこの貴族宅のネコだと確信したエルガーだったが、ネコを大切そうに抱えるコゼットの姿が一瞬頭をよぎり、婦人には「ネコは必ず無事に戻って来ます」と告げるに留めた。まだ話を聞いて欲しいと迫ってくる婦人の腕を無慈悲に引き剥がして、エルガーは屋敷を後にした。

          🐈‍⬛

次にエルガーが訪れたのは、ゼクレス魔導国領内トポルの村。

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そこは小さな酒場のカウンター。古い土壁が見えない程に、至る所に酒の宣伝ポスターや写真が貼られている。雑然とモノが置かれているが、黒光りした板張りの床はきちんと手入れされていた。どれもこれも懐かしい。
まだ夕方の早い時間の為、他に客も居ない。年老いたマスターが裏から戻って来て、エルガーのグラスに酒を注ぎながら親しげに話しかけた。
「エル、久しぶりじゃないか。お前がこんな辺鄙な所まで来るなんて、珍しいな。要件は?」
エルガーはグラスの酒を一気に飲み干しマスターに嫌味を言う。
「なぁに、マスターの生存確認だよ」
気心の知れた間柄なのだろう、お互いにニヤッと笑う。
マスターの口から出る言葉も容赦なく「ほざけ若造が!俺はお前より長生きするさ」
と、口は悪いが嬉しそうだ。
エルガーがチラッと酒場の隅の壁に飾られている色褪せた写真を見ると、中の一枚には軍服で肩を組む三人の兵士の姿。後の二人はわからないが、中央に写るのはエルガーだった。今よりも少し若く、何より眼帯をしていなかった。
エルガーはそれを一瞥しただけで、何も言わずにグラスを傾けた。

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「ところでマスター」
と、エルガーは本題を話し出す。
「この周辺で最近羽振りの良い窃盗団は居るか?」
マスターはグラスを磨きながら答える。
「ここゼクレス魔導国領内はアスバル王子が王位に就任する前はそれなりに窃盗団が幅を利かせていたが、最近では治安も改善され、めっきり勢力を失ったね」
エルガーもそこまでは把握していた情報で、相槌を打ちながら黙って聞いていた。
「ただ、こんな辺鄙な場所さ、酒場の数も多くない。窃盗団に入る酒は実は殆どウチが仕入れ卸しているよ」
続いてマスターが、悪どい顔を隠しもせずにエルガーに尋ねた。
「ところでエル、良いボトルがあるんだ。どうだい?」
すぐに察して呆れるエルガー
「ったく、分かったよ。情報とボトルを交換な?地獄に堕ちろ、ジジィめ!」
笑いながらマスターは、最近酒を大量に買い込んだ窃盗団を二つ教えてくれた。
酒場を出て、エルガーは小さな地図を手に思案した。
(あのジジィめ、高いボトル買わせた癖に、窃盗団を二つまでしか絞り込めないとは)
地図の一部を指でなぞり、眉間に皺を寄せる。
(呪いの泉をアジトにする窃盗団か、レビンの洞窟をアジトにする窃盗団か・・)
そして、片方の名前が記された場所を指差して
(まぁ、手掛かりはこれしかない。直接交渉と行きますか)
と、不適な笑みを浮かべ、歩き出した。

         🐈‍⬛

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丁度見上げる程の岩壁に囲まれ、窃盗団の格好の隠れ家となっている呪いの泉。
大きな悪魔の手の様な曲がりくねった木がザワザワと音を立て、こちらに腕を伸ばす。
そこに生息する赤い瞳のモンスターの瞬きが、あわよくば食べ物をくすねてやろうとを隙を狙っている。
泉の手前では、十数人の窃盗団の男達が宴の最中だった。
簡易な木箱や樽の上に所狭しと肉と酒が並べられ、酒瓶があちこちに転がっていた。
この日は大きな収穫があったとかで、窃盗団のボスから大量の酒が振る舞われていた。
むさ苦しい身なりの男達は浮かれ騒いで、既に出来上がっている。宴の席は酒の匂いが充満していた。

ドーン!ズザザザッ!!
その男達の輪の中に、大きな音と共に突如見張り役の仲間の一人が投げ入れられた。
まさに勢いよく宙を飛んで転がり込み、酒も料理も人も全てを薙ぎ倒す。
酒樽や酒瓶が倒れて足元を濡らした。飛んで来た男の下敷きになったり、将棋倒しになった者もいて、怒号が鳴り響き、その場が騒然となる。
「あ〜、盛り上がっているところ、すまん。貴族宅から猫を拐ったのはお前らか?」
不敵な笑みと、緊張感の無い問いかけと共に、ゆっくりと宴の席に足を踏み入れたのは他でもない、丸腰のエルガーだった。
窃盗団の男達は慌てて起き上がり、身構える。
「誰だ、てめぇ!」
「こんな事してタダで帰れると思うなよ!?」
いきりたった数人の脅し文句がこだまする。
武器を取り、腕に覚えのある者は既に戦闘体制。
エルガーも最初からまともな会話をするつもりは毛頭なかった。
こういう輩には、まず力の上下を解らせなければダメなのだ。

エルガーはスッと右手を伸ばし、手のひらを地面に向けてかざした。それと同時にエルガーの足先の地面が、黒く澱む。その小さな池の様な澱みから、黒く細い物体が突如現れ、差し出す手に向かって伸びてくる。それは、エルガーの鎌だった。
真っ直ぐに逆さに生えてくる鎌の柄はエルガーの背丈程の長さ。最後に現れた鈍く光る漆黒の鎌の先には、紫色の宝玉が嵌め込まれていた。柄の中央をがっしりと握ると、それはエルガーの一部のようにしっくりと手に馴染んだ。
その様子を間近に見た男達は息を呑んだが、ここで引き下がる訳には行かない。こちらは多勢、相手は一人だ。
「うおぉぉぉー!!」
勇気と評するか、無謀と評するか、誰かの掛け声と共に男達はエルガーに向かって一斉に襲い掛かった。

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エルガーは相手が動いたのを見ると鎌を構えた。

【厄災の滅撃!】思い切り目の前で鎌を横に振るい、焔と共に凄まじい気がエルガーの前方に放射された。「グハッ!?」鎌の刃に殆ど触れていないはずなのに、彼らは爆風と共に吹っ飛ぶ。
「た、助けてくれ!」
そのうちの3人は呪いの泉の向こう側まで吹き飛んで、なんと木の枝にがっしりと胴体を掴まれて動けなくなった。
情けない声で助けを求め、手脚をジタバタさせるが、木は男達を掴んで離さない。
エルガーはそれを見るとニヤリと口の端に笑みを浮かべ「ナイスジョブ」と呟いた。
他に残った男達は再び応戦したが、エルガーの持つ鎌は妖気を帯び、その刃に掛かると相手は体力を著しく削がれて息も絶え絶えとなる。「お前ら!情けねぇぞ!」
エルガーの攻撃に何度か耐えた窃盗団のボスは、とうとう最後の一人となった。
ボスは魔法を使った遠隔攻撃が得意らしく、エルガーの鎌の攻撃範囲から離れていたのだ。
【闇のヴェール】
エルガーは両腕に気を込めた。身体から赤黒い焔が立ち昇り、浮き上がる。焔は鎌へも移り、一つの大きな塊となって獲物を探し始めた。
ボスも黙ってやられている訳にはいかない。
ベギラゴン!】短い詠唱の後、白い雷撃がエルガーを襲う。しかし、今の焔を纏ったエルガーに大きなダメージは与えられなかった。

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エルガーは鎌を持ち直すと「サクッと行こうか」と呟く。
【黒炎帝の斬撃!】それは、鎌の先に宿る赤黒い死神だった。妖気を隠しもせず、立ち昇る焔がボスの腹のど真ん中に入った。

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「グハッ!」
ボスは息が詰まり、身体中の血が沸騰したかと思われた。しかし、数秒後、まだ自分が生きている事に気がつく。経験上、骨が何本も折れているのは間違いないが、それでも、生きている。
地べたに転がったまま恐る恐る目を開くと、目の前にしゃがみ込んだ隻眼の死神が、ボスを眺めていた。
エルガーは鎌の刃先をチョンチョンとボスの頬に付けて
「ネコを拐ったのはお前ら?」と尋ねた。
ボスは全てを観念した。
「そ、そうだ。身なりの良い白髪の老人が、依頼に来たのさ。破格の額でな!ステッキを付いて右脚を引き摺っている奴だ」
エルガーは眉を顰め、顔を土につけたままのボスに、話を続けろと顎をしゃくった。
「貧乏貴族の家の絵画をすり替え、ついでに黒ネコを置いてこいって言う珍妙な依頼さ。黒ネコを飼ってるので有名な貴族宅があったから、そこからネコを盗むのは簡単だった。あの絵は余程の値打ちもんなのか?それなら、売っちまえば良かったぜ」

捨て台詞を吐こうとする窃盗団のボスに最後の一撃をお見舞いすると、そのままエルガーは立ち上がる。
呪いの泉に入って来た時のように、鎌を握りしめた右手をグイッと前に突き出す。すると、黒光りした鎌が上と下から空間に溶けていく。エルガーの右腕の内側が黒く澱んだかと思うと、鎌はスッと澱みと共に音も無く腕に吸い込まれていった。
「ふぅ」
エルガーはほんの少し肩をすくめると、手早くボスを始めとする窃盗団の男達を縛り上げ、その場に放置した。
(後でゼクレス軍に匿名の連絡を入れておこう)と思いながら、エルガーピノの待つ探偵社へと帰路に着いた。

         🐈‍⬛

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何処かの薄暗い部屋の壁に寄りかかり、ピノは室内を眺めていた。
手には、栞を挟んだページの開かれた一冊の本。
窓から差し込む月明かりが、ピノの端正な横顔を照らしている。

『この絵画は思い出深い・・・
絵描いた猫は、母が飼っていた猫でねぇ。当時は黒ネコを飼うなんて縁起が悪いと周りから散々言われたものさ。
母は「漆黒の毛並みに金色の瞳が美しい」と言って、いたく黒ネコを可愛がっていてね。その時は「本人が良いなら」と思っていた私も、母が不慮の事故で急死した際には、黒ネコを恨めしく思ったよ。
母の葬儀も終わったある晩の事だ。遺品整理の為に母の部屋に入ると、片方の窓枠に母の黒ネコが佇んで、まるで母を呼ぶ様に鳴くんだ。
私はその姿がとても美しく思えたんだ。
夜の闇が月に照らされ、繊細なグラデーションを放ち、漆黒の猫がまるで浮かび上がる様な構図。
とても美しかった・・・。
私は、母の為にもこの光景を絵画に残さねばと使命感に駆られ、必死に筆をうごかしたよ。
そうして『夜と猫』は完成した。』

微かに風の音がする。窓の隙間から冷たい空気が入って来て、側のロウソクの炎を揺らした。隣の部屋からはカチャカチャと生活音が聴こえて来るだけで、とても静かだった。
パタリと本を閉じ、ピノは得意げな表情で前を見据えた。
「思った通りだ。僕の前で隠し事なんて許さない」

     🐈‍⬛,,,,,to be continue


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   🌹本日のサービスショット🌹

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没写真だけどかっこいい!!

これ撮るのも結構大変だったのよ(^^)

 

     🌹前回までのお話🌹

scene1

https://solz29dq10.hatenablog.com/entry/2022/03/28/052222

scene2

https://solz29dq10.hatenablog.com/entry/2022/03/30/052316

 

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