42.表がダメなら裏からで


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神殿の脇までくると、頑丈な門の奥に清らかな水を湛えたオブジェが見えた。

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(あの奥に精霊の気配がある)

心が洗われるような、それでいて緊張するほどに清洌な空気が、サマリの身体を包むのがわかった。少し霊感の強い者ならば、きっと誰もが感じる事が出来るだろう。お金に汚いだのなんだのと、色々悪評も漏れ聞こえてくる神殿だが、その存在価値は明らかだった。

神殿前の門番に「中へ入れて欲しい」と月の姫への面会を申し出た所、何か勘違いされたらしく、サマリは取り付く島も無く追い返されてしまった。

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どうやら、月の姫という言葉がいけなかったらしいと後で気がついたが、後の祭りである。この街で崇拝される月の姫に会いたい者は数知れず、中には不埒な者もいる為に余計な警戒をされてしまったのだ。

とりあえず騒ぎを起こしたくなかったサマリは、黙ってその場を立ち去ったが、そのまま大人しく引き下がるわけにはいかない。

(はいそうですか、なんて言うわけ無いじゃない)

帰るふりをしてサマリがソルと足を伸ばしたのは、昨日働いていた食堂の裏手。下街との境に広い神殿の壁があり、そこの一画が崩れているという話を、サマリは仕事中に聞いていた。

「ソル、行くよ」

『ピピッ!サマリちゃん、案内は任せて!ピピッ』

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持ち前の身軽さで崩れた壁をよじ登り、サマリは躊躇なく敷地内へ乗り込んだ。

『サマリちゃん、火の神殿はこっちよ。ピピッ』

礼拝堂や、宿舎など、立派な建物が並ぶ中、ソルが誰にも見つからないように導いてくれたのは、ひっそりと佇む祭壇前。

綺麗に掃除され、花が活けられ、常備灯がちろちろと炎を揺らしている。

サマリは、言われるままに祭壇の後ろの回り込み、その場所で途方に暮れた。

その祭壇の裏側には扉らしきものは見当たらず、足元の砂地にはサマリの足跡のみ。長いことこちらに来た者は居ないようだ。

『サマリちゃん、ピピッ!詠って!詠って!ピピッ!』

そう言って、ソルは緊張感のかけらもない様子でサマリの肩に飛び移り、その頬に頭をゴシゴシ擦り寄せた。

「そんな、詠うって何を?それに誰かに聴こえちゃうよ?」

するとソルが囀りはじめる。聴こえてくるのはサマリにはとても懐かしい旋律。

小さい時からソルが傍らで鳴いていた子守唄のような覚えのある曲だ。

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そして、ソルと会話が出来る様になった今、そこに歌詞がついているのがわかる。

『その炎は命の光、輝ける佳人リーテの瞳は時を止め、時を移し、何処に誘わん』

すると、ソルの輪郭がぼんやりして、突如サマリの目の前が消えた。

「ソル!!?」

それは、オアシスの村の地下神殿で見た文章。

サマリは慌ててそれを真似する。

「その炎は命の光、輝ける佳人リーテの瞳は時を止め、時を移し、何処に誘わん」

軽いめまいと共に、視界がぼやける。

サマリの姿も、小さな光となり、その場からスッと消えた。

小さな祭壇裏は、サマリの足跡を残したまま、何事もなかったかのように静寂に包まれた。

                              続く


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