45.無知の罪


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『どうしたものか・・・』

と呟いて、イフリーテはヒタとサマリを見つめた。紅い瞳の奥に小さな炎が揺れている。

『其方の努力に報いてやりたい気持ちも無くはないが・・・。リヤハにいいように使いに出されて、秘宝がなんたるかも知らないで来たのであろう?』

たしかにそれはその通りだった。サマリは話の流れがあまり良くない事を予感して息を呑み、そっとうなづいた。

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『ピピ!リーテちゃん!サマリちゃんは私の大事な子よ!ピピッ!お願いを叶えてあげて!』

ソルはサマリの右肩の上で訴えた。

『リーテちゃん!私の事、今はソルと呼んでね!ピピ!可愛い可愛いサマリちゃんが付けてくれたのよ』

サマリは微笑んで左の手を伸ばし、肩の上のソルを撫でた。

ソルはイフリーテを友達だと言うが、今の見た目に惑わされている事を除いても、そこに力関係がある気がした。

「リヤハ様は、自然そのもの。そこに善も悪もなく、私が意見を挟む余地などございません。私は自分の育った村を救いたい、その一心です」

たしかに一理あると思い直したイフリーテだったが、はいそうですかと簡単に秘宝と呼ばれる代物を人間の子供に見せるわけにはいかなかった。

『恐らく、リヤハは自分が居眠りしていた時間と、神殿の威光を取り戻したいのであろう』

精霊にとって、人間からの信仰心は権力欲ではなく、自分の力の増減に関する重要事だ。信じるものが居なければ、存在が危うくなる。

そしてソルを一瞥する。それは、出来の悪い愛すべき妹を見るような視線だ。

『私と、ソ・・・ルは古き友。その友の娘ならば、突っぱねる事も出来ぬな。まずは、リヤハの風の神殿の譜を、示してもらおうか』

言い慣れない名前を口にしながら、イフリーテは赤みがかったしなやかな手をこちらに伸ばした。ソルは迷いもせずに、サマリの肩からイフリーテの差し出された手へ飛び移り、軽やかな声で囀った。

『リーテちゃん!ピピ!リーテちゃんはお願いきいてくれるって、アタチ、わかってたわ!』

その脇で、サマリは慌ててパピルスを取り出そうと腰の袋を開けた。中には、乾燥した命の葉の残りの束や、ソルの巣から持ってきた古い金の硬貨、まだ騒動が起こる前にソルが何処からか持って来た鉱石の粒が入っている。どれも大事なものだ。

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サマリは手元を見て深呼吸。長老の訳にソルの子守唄の節を付け、一気に詠った。

「宝求めんと欲する者よ

 月の子供の祈りを捧げよ

 その炎は命の光

 輝ける佳人リーテの瞳は時を止め

 時を移し、何処に誘わん

 月の子の譜を捧げ

 佳人リーテの炎を授からん」

我ながら、つかえずに良く言えたと思い、そっとイフリーテの表情を伺った。

意外と表情豊かな炎の精霊は、困惑したような面持ちでサマリを見つめ返し、こう言った。

『やっている事は合っているのだが・・・。どう理解させたら良いものか』

そんな事を言われても、サマリもさっぱりわからない。今更やり直しと言われても困るし、自分に出来る事が他にあるのか疑問だった。

「何処が・・・いけなかったのでしょうか。オアシスの水源を何とかして元に戻したいのです」

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『リヤハの加護を受けし娘よ。私が其方の願いを叶え秘宝をリヤハに貸し与え、水源が元に戻ったとして・・・』

サマリは次の言葉を待つ。緊張が徐々に高まり、足元でつむじ風が起きつつあった。

『次に起こるのは、その場に居合わせた其方自身、其方の大事な者達全ての消滅であろう。それでも良いの?』

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