54.魔石

 


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イフリーテは、サマリからその石を受け取ると、楽しそうな表情で右手を石にかざした。

『そんなに期待するでないぞ?ほんのちょっとしたお遊び。。。ふふふ』

サマリは興味深々にイフリーテの手元を覗き込む。その鉱石は特に変化したようにも見えない。こうしてみると、イフリーテはとても人間臭いように思える。もしもこんな姉がいたら素敵だなどと、勝手な想像をしてみる。

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高位精霊と言っても、ソルを友と呼ぶイフリーテは、きっととても明るい性格をしているのだろう。

しばらくすると小さなその石をサマリの掌にそっと乗せて、彼女はこう言った。

『使えるのは一度きり。良く晴れた日に、外で小さな焚き火をして、そこにその石を投げ入れなさい。そして、地平線を探しなさい。私が面白いものを見せてあげる』

いたずらっぽく笑ったイフリーテは可愛らしく、サマリもつられて笑顔をかえした。

サマリは、この石の使い時がなんとなくわかった。お遊びだと言ったイフリーテが、今回の事にこの上なく協力してくれているという事がわかる。

『ピピ!それって、この前の夕飯が落として行った魔石ね!ピピ〜。たまにあるのよ、そういう事が!』

側で話を聞いていたソルが、毛繕いをしながら涼しげな顔でそう言った。

『よくわからないけど、ピピ!貴重そうなものだからお土産にしたの!ピピ!』

(この前の夕飯・・・)

サマリは、掌にあるこの石が急に恐ろしいモノに思えてきて、一瞬取り落としそうになった。

この黄色くて可愛らしいインコは、実はあの大きな白い鳥なのだ。いつも定期的に居なくなっていたのは、餌を求めに行っていた為だったとつい最近理解した。

『サマリちゃん、村へはアタチが連れ帰ってあげるから、なーんの心配も要らないわ!ピピ!』

ソルは、イフリーテに対抗して、自分がサマリにとってどれだけ役に立つのかを主張してみせた。

「ありがとう、頼りにしてる」

ソルはパタパタと飛んでサマリの肩に乗り、ふわふわの頭をいつものようにグイグイと押し付けた。こそばゆくて暖かい、ソルの愛情表現は、いつもサマリの心の隙間を埋めてくれる。何者でも良いのだ。ソルはサマリの大事な家族だ。

         🌹

数刻の後、サマリとソルはイフリーテの城を出て神殿のはずれへ戻ってきた。

行きは大変だったが、帰りは一瞬の事だった。

この神殿の外れには勝手に忍び込んだので、サマリは帰りも誰にも見つからないようそっと柱の影から顔を出した。

「やっぱり、来ていたのですね」

「!」

透き通るような聞き覚えのある女性の声。

相手から殺気や不穏な空気は感じられない。おそるおそる振り向いて声のする方を探ると、ゆっくりとした衣擦れの音と共に、佳人が物陰から姿を表す。

サマリは気配で、相手が誰なのかすぐに気がついた。

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それは、祭りの日にバルコニーの奥に見た月の姫その人だった。

         続く


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