『ピーピッピッピッ、サマリちゃん可愛いわね。ピピッ、キラキラ金の髪、素敵素敵』
サマリはソルの囀りと朝の光に起こされて背伸びをした。
昨夜、食堂を手伝っている間何処かへ行ってしまっていたソルは、今朝になってちゃんとサマリを見つけて戻ってきていた。
『ピーピピピピ、この辺のトカゲは大きくて良いわね。マモノはお腹いっぱいにはなるけどあまりおいちくないの。ピピピ、軽めの朝食よ』
ソルはそう言いながら側で毛繕いをしている。
「おはよう、ソル」
サマリは目が覚めて、顔を洗おうとしてふと思い留まる。そういえばここの水は海水だった。顔を洗ったらカピカピになってしまいそうだ。
『どうしたの?私の可愛いサマリちゃん、ピーピピ!悩み事は言ってね。ピーピッピッ!サマリちゃんの為なら何でもしてあげる。ピピピ!』
気持ちだけで充分嬉しいと笑いながら、サマリは独り言のようにソルに話しかけた。
「ここの街の人達は顔を洗う水をどうしているのかと思って」
『ピッ・・それなら・・』
ソルが何かを言いかけた時、丁度サーリーが起きてきた。客室などそんなものはないので、当然、サーリーはサマリのいる台所脇に入って来る事になる。サーリーは台所に来るとまず、ソルに手を伸ばして、人差し指で頭を撫で、それからサマリの方に振り返った。
「おはよう、よく寝られた?俺、なんだか今日はめちゃくちゃ元気。ソルもおはよう」
意外にもソルは大人しくされるがままになっている。
(オアシスの村では私以外誰にも触らせなかったのに、不思議ね)
サマリは洗顔の事はひとまず忘れる事にして、世話になった礼を述べた。
そして、もう行かなければいけない、と告げた。
サーリーは驚いた様子で、とにかく朝食を食べようと提案して来た。
サマリは有り難く厚意に甘える事にする。
「これから何処にいくんだよ?アテでもあるのか?」
台所に立ち何かを焼きながらサーリーは訊ねた。
「アテではないけれど、私、神殿に行かなくてはならないの」
サマリは答えながら、今朝も乾燥した命の葉をサーリーに渡してスープに入れてもらう。
「これ、なんなの?」
と、笑って受け取りながらサーリーが言う。
「んー、村に生えてた草。私、毎日これを食べていたから、食べないと落ち着かなくて?」
顔を見合わせて笑うと、サーリーはその場でまたスープをよそってサマリに渡し、焼いていた肉を取り出す。
『ピッピッ!お肉は生に限るのに!ピピ!』
と、カマドから少し離れた場所からソルが文句をつく。ソルは火の通った食べ物は口にしないので、ソルと一緒に生活してきたサマリは、村人にご馳走になる時以外で肉を口にする事がなかった。
「あ、これ少しだけど」
思いついたように、サーリーが透明な水の入った小さな茶碗をサマリにそっと手渡した。
なんだろうと素直に受け取って顔を見上げると、サーリーは明るい緑の目を細めた。
「真水。中心部の井戸から汲んで来るんだ。それしかあげられないけど、飲んだり顔洗ったりしてくれよ」
きっとこの街では貴重なものなのだろう。有り難く受け取って、使わせてもらう。
朝食を取り、手早く身支度を整える。
宿代として、昨日と一昨日稼いだ賃金の半分を渡そうとして少しの押し問答があったが、結局サーリーは1Gも受け取らなかった。
「サマリのおかげで、楽しい祭だったよ。気をつけてな。用事が終わったら、顔出せよ」
サーリーに見送られ、ソルと共にドアを開けると、遠くからサーリーの父親がこちらに走って来るのが見えた。挨拶をしたかったのに朝から姿が見えなかったので、会えてサマリはホッとする。
逆に驚いたのは息子のサーリーの方だった。
「親父!?親父が走ってる!」
息を切らせていたが、スッキリとした顔で汗を流す父親が、サマリ達の前まで辿り着く。
「良かった、お嬢さん。これを」
サーリーの父親は、旅の途中だというサマリに小さなランタンを取りに行ってくれたのだ。
あの階段上の倉庫へ、今行って来たのだと言う。親子揃って、本当に親切だ。
「それが不思議なんだよ、サーリー!今朝起きたら身体がスッキリして何処も痛くない!」
嬉々として息子の前で肩を回して見せる父親は、昨日とは別人のように若々しく見えた。
不思議なこともあるものだ、と思いながら、この優しい親子に別れを告げて、サマリはマッカの街の神殿を目指す事にした。
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『ピピ、サマリちゃん、良い子ね!ピピ!とっても良い子!』
神殿に向かうサマリの周りを、ソルが軽やかに舞い飛ぶ。
「ありがとう、ソル。これから神殿よ。無事入れて貰えるかしら。心配だわ」
神殿までは昨日食堂へ行った道と同じだ。サマリは歩きながら、無意識に腕についた金のブレスレットをさすった。
(うん。きっと大丈夫。ソルがいるし、リヤハ様の風の加護もある。どうしたらいいかよくわからないけど、とにかく神殿へ・・・)
続く