60.白い翼は


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一方。自宅に戻っていつも通り荷物を片付け始めていたサーリーは、父のバンダルにサマリと会った話をした。

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「聞きそびれたままになっちまったけどさ、そろそろ帰るみたいだったよ」

なるべく平静を装いながら話す息子を、バンダルは珍しく咎めた。

「おまえ、女神様とそんな簡単にサヨナラして来たのか!?」

サーリーは苦笑いしながら父親の方を振り返った。

「あはは、親父、サマリは女神様なんかじゃない、ただの女の子だよ」

しかし、バンダルは食い下がった。

「女神様じゃないと言うなら尚の事!あんな良い子は手放したらいかん!」

(親父は自分の病気が治った事をサマリの力か何かだと思っているのかも知れないな。何か打算でもあるんじゃないのか?)

そう思ったサーリーは、まだ自分は結婚も恋愛もする気はない事、サマリには何か目的があり自分達には関わりがない事など、言い訳がましく語り始めた。

「サーリー、俺はそんな事を言ってるんじゃないぞ?」

普段は自分のやる事にあまり口出ししない父親が、今日はやけに食らいついてくる。だから思わず口答えをした。

「あいつは、こんな街のちっぽけな絨毯屋の息子のところに収まるような奴じゃない!」

そう言葉にすると、自分が情けなく、心にポッカリ穴があいたような気分が更に増した。

睨みつけた父親は、諭すような眼で自分を見返していた。今、行動しなければ後悔するぞと、そう告げていた。

サマリの事などほとんど何も知らないのに、無茶をする訳にはいかない。一人息子であり、店もあり、密かに食堂を開きたいという夢もある。冷静になれ、ともう一人の自分が行動を押しとどめる。だからこそ、この数日のもやもやの正体がわかる前に、良い思い出にしようとしたのに。

(親父め、わざわざほじくり返しやがって!)

いつもなら、台所に立て籠ろうとするサーリーだったが、今日は違っていた。

「行ってくる」

何かを決心して苦笑いしながら立ち上がった息子の横顔を、バンダルは頼もしく見上げた。

「それでこそ俺の息子だ」

          🌹

家を出たからといって、何処にサマリがいるのか知る術はない。会ってどうするのかも、決めていない。けれど、会えばわかる、とサーリーは思った。

とりあえずさっきの宿へ向かおうとサーリーが深呼吸して空を見上げると、サマリのペットの黄色いセキセイインコが街の城壁へ飛んで行くのが見えた。

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(あれは!!)

きっとその先にサマリがいるに違いない。サーリーはソルを夢中で追いかけた。

ソルはスーッと城壁の門の上を抜けて街の外へ出てしまう。

サーリーは慌ててその後ろを追いかけるが、門番に呼び止められた。

「おい!おまえサーリーだろ?もう暗くなる!外は危ないぞ!」

街の出入りは自由だが、夜になればメインの大きな門は閉まってしまう。

「わりぃ!ちょっと急ぎだ!」

静止を振り切って門を出てみたものの、一瞬でソルの姿を見失った。

前方には鳥影も人影もなく、仕方なく城壁に沿って少し移動してみることにした。

そして、サーリーは確かに見たのだ。

白い大きな怪鳥が、サーリーの目の前でサマリを咥え、背中に放り投げた所を。

怪鳥はしがみつくサマリ諸共に、大きな羽ばたきを始め、今にも飛び立とうとしていた。

(サマリ!あぶない!!!)

サーリーは全速力で走った。

そして、飛び立つ怪鳥の脚にかろうじてしがみつき、そのまま夜の帷に包まれる砂漠の大空へ連れ去られてしまった。

サーリーは、ザラザラとした怪鳥の脚から振り落とされないように、しがみつく手に力を込めた。

怪鳥の脚はフワフワのお腹の下に半分しまわれて安定しているため、手さえ離さなければ、振り落とされる心配はなさそうだ。しかし、空気が薄いのか少し息苦しく、寒く感じた。

やがて飛行が安定して、サーリーがうっすら目を開けると、眼下に小さく街の灯りが遠ざかって行くのが見えた。

(やべぇ、俺、落ちたら死ぬ)

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しかし、この景色はどうだ。自分が生きてきた世界はなんとちっぽけなものだったのだろうか。今は恐怖より、青年の冒険心の方が優った。今ならなんでも出来そうな、そんな気がした。

「サマリ・・・」

白い怪鳥は、脚にサーリーを乗せたまま、ぐんぐんと東へ飛んでいく。

          続く


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