40.祭りの後


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その日太陽神を拝んだ後、サマリもサーリーの家に戻り休ませてもらう事になった。

夜通し続いた祭りは昼まで続き、寝不足の身体に鞭打って街は片付けに入り、早めの夜を迎える。

サマリは、その日昼過ぎから再び食堂をサーリーと二人で手伝う約束になっていた。昨夜寝ていないので、少し仮眠を取らなければならない。

サマリはソルとも合流出来たし、もう不安も怖いものもない。絶え間なく囀り続けるソルのおしゃべりを軽く流して聴きながら、二人は雑踏をくぐり抜け、また街外れの絨毯屋まで戻ってきた。

サーリーは気が抜けたように欠伸をしたが、すぐ横にはならずに再び家の台所に立った。

「眠いぜ。でも俺、小腹が空いた」

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そう言って、かまどの火を起こし始める。

昨日のスープの残りを温め直すつもりらしい。その様子を見たサマリは、ふと思いついて自分の荷物をガサガサと開け、乾燥させた命の草をひと掴み取り出した。

長年サマリは、これを生で食べて来た。みずみずしい葉はクセも味もほとんどなく食べやすかったが今はこのような状態で、そのまま食べるには喉が詰まりそうで抵抗があったのだ。

「サーリー、これ、その中に入れても良い?」

そう言って乾燥した葉を渡すと、サーリーは葉をしげしげと眺めて「へぇ、見た事ない葉だな。これ、美味いの?」と言いながら疑いもせずに葉をちぎって鍋に投入した。

葉を加えても特に味付けの邪魔にはならず、温め直したスープはサーリーの父親と三人で飲んだ。

父親は無口な大人しい人で、少し歩き方や動きがぎこちなかった。

「おじさん、何処かお悪いの?」

何気ない世間話をしながら、最後の一口を飲み終えたサマリが訊ねると、父親は

「身体の節々が痛くてね。ワシも歳かのぉ」

と笑った。

サーリーと同じ銀髪で、白髪はまだ無さそうだし、顔も長老よりもずっと若く見えるのに気の毒だ。

行きずりの身で何も出来ない自分を、サマリは歯痒く思うしかなかった。

          🌹

食堂は、祭りを楽しむ者達から祭り後の打ち上げをする労働者達へと客層を変えて、夜が更けてからも繁盛していた。

「そろそろお前ら、帰って寝ろ!」

と、厨房の中からサーリーが空のフライパンを掲げて客席へ怒鳴る。

相手はサーリーとも親しい常連客で、お互い軽口を言い合っている。

「こらっ」

女主人に笑ってこづかれて、また奥へ戻って行くサーリーを見るのは今日何度目だろうか。きっと、疲れて早く帰りたいに違いない。

サマリはクスリと笑ってラストオーダーを取り始めた。

          🌹

「お世話になりました」

その日の賃金を受け取りながら、サマリは丁寧に礼を言った。

食堂の女主人は、サマリに

「あんたならいつでも雇うよ」

と言ってくれた。

感謝を述べながら、サマリは心の中で思う。

これは祭りが見せた夢なのだ、と。

明日からの自分はどうなるかわからない。風の精霊リヤハとの約束を叶えるため、手探りの旅の続きが始まる。

辺りはすっかり暗くなり、ランタンの飾りも外されて、階下には所々松明の灯りが見えるのみだ。

潮の香りがサマリの鼻を撫でる。

サマリのマッカの街の二日目はこうして終わった。

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         続く


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