74.思い出は匂いと共に

 


ドラゴンクエストX(ドラクエ10)ランキング

迎えに来たサーリーと歩く時間はあっという間に過ぎた。もう村長宅は目の前だ。

「ねぇ、良い匂いがする!」

サマリは大きく鼻で息を吸い込み、一瞬だけ嬉しそうにサーリーに笑顔を向けると、彼を置き去りにして飛ぶように先に走っていく。その後ろ姿は軽やかで、まるで重力を感じさせない。

サーリーは笑って後をゆっくり着いていく。

家の中では、ラウダをはじめとする村長の子供達が、二人を待っていた。

f:id:solz29dq10:20221109131706j:image

囲炉には大鍋にサーリーの作ったスープが湯気をあげていた。
「やっと来た、二人とも!ねぇ、これ少し食べたらダメなの?この匂い我慢できない!」

火の番をしてくれていたラウダは持っていた木杓子を鍋に戻すと、不服そうにジタバタしてサマリの腕をとった。

「早く傷病人の村の人に飲ませてあげたいでしょう?」

サマリは笑ってラウダを宥める。

「この家の人には、後で改めて作るから」とサーリーは最後の仕上げにかかる。

サマリは、サーリーの手に先程渡した「いのちの葉」が握られているのを黙って見ていた。

小分けする為の鍋を持ち、そっとサーリーの隣に立つ。手の中で細かく砕かれた葉は、サラサラと大鍋に投入された。色褪せた緑の粉は、木杓子で混ぜられすぐにわからなくなった。この最後の仕上げに気がついた者は、いないようだ。

「みんな元気になると良いな」

サーリーは、隣のサマリに呟いた。

「うん、きっと上手くいくわ」

その後、二人は小さな荷車を借り、病人のいる家を回り始めた。

道案内はサマリが行う。自分の発案で行った事もあり、確実に届けて飲んで欲しいというサーリーの願いで二人で出掛けることになったのだ。

家の中から、自分の部屋の片付けが終わらず出掛けられないラウダとデイヤーが羨ましそうに見送ってくれた。

f:id:solz29dq10:20221111223150j:image

           🌹

サマリが訪れた数軒の家では、差し入れのスープを喜んで飲んでくれた。余所者が作ったものを口にしてくれるのかという心配は杞憂に終わり、サーリーは安堵する。皆単純に、その匂いに惹かれて美味しいと言って飲んでくれたのだから、サーリーにも楽しい道中だ。元気な同居人や子供も欲しがってしまい、断るのに困ったくらいだ。

「良かったわ、無事にみんなに配れきれそう」

サマリは軽くなった鍋を持ち、くるりとその場で回っておどけて見せる。

「俺や親父が飲んだ時は、もっと大量に葉が入っていたから、今回は少し効き目が薄いかもしれないけど、あとは祈ろう」

満足いく一仕事を終えて、二人はお互いに見つめ合い微笑んだ。

「サーリーは、やっぱりお店を持つべきだと思うわ」

サマリは真剣に、思った事を口にした。しかし、サーリーは苦笑いして首を振った。

「簡単には行かないもんなんだよ。資金もないからな」

マッカの街では、代々親の仕事を継ぐのが当たり前。新しい事を始めようにも、土地が無い。サマリが外から見たマッカは、活気溢れた自由な市場のある開かれた都市だった。けれど、砂漠の城壁に守られた古い土地である。神殿主導で慣習に縛る事で問題を最小限に押し留め、代わりに閉塞感と不満を作り出して来たのだ。

「ふぅん。私、食堂で働いたあの二日間が、生きてきた中で一番楽しかったわ」

女将は元気だろうか、よくしてくれたお客達は自分の事を覚えているだろうか、とあの時のことを思い出す。ごろつきに絡まれた事さえも、サーリーに出会えた良い思い出になってしまう。

f:id:solz29dq10:20221112064852j:image

最後のスープを配り終え、空の鍋を荷台に片付けながら、サマリはあの時イフリーテと約束した内容を噛み締めた。そして、このオアシスの村を出るかもしれないという予感を強め、傍のサーリーの横顔をそっと眺めた。

        続く


ドラゴンクエストX(ドラクエ10)ランキング