35.スープ


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「なっ!?お前、その水を直接飲んだのか!?」

サーリーは驚き、呆れ果てた顔でサマリを見た。

「な、なんなの、これ・・」

サマリの飲んだ水には塩気が含まれていた。

涙目のサマリは、苦笑いするサーリーの顔をじっとりと睨め付けた。慌てる様子もないから、毒とかそういうモノではないのだろう。しかし、騙されたのかとか、理由のわからない後悔とか、もやもやした感情が入り混じる。

「迷子って言ってたけど、お前、この街は初めてなの?」

その問いにサマリはブンブンと首を縦に振って頷き、口に残る塩水を吐き出す場所を探して、目をキョロキョロさせた。

すぐに察したサーリーは、ゴミ箱のような場所にサマリを促し、口の中のものを出させる。

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「びっくりしたんだなぁ。飲んでも身体に害はないけど、しょっぱかったろ?だから今、軽めのスープを作ってやろうと思ってたんだよな」

(酒ならすぐ出せたけど、子供に飲ませられないだろ)と呟きながら、濡れた服を拭くように、と布を差し出したサーリーは、塩水と顔の埃にまみれてひどい有様になったサマリに笑いかけた。

「悪いな。説明が足りなかった。この甕の中は井戸水だけど、海が近いせいで塩辛いのさ。ここらでそのまま井戸水を飲む奴はいないんだ」

その言葉を聞いてサマリはようやく落ち着きを取り戻し、親切な青年に逆に謝らせてしまった事を反省する。

「ごめんなさい、私が勝手な事をしたから」

サマリは服を拭き終わると、布をそっと脇に置き、名前を告げた。

「私はサマリ。オアシスの村から、この街にさっき着いたの」

ボサボサの髪を撫でて落ち着かせ、今更だが顔についた埃を払い、サマリは台所で作業するサーリーの後ろ姿を見上げた。

無駄のない動きで何かを作っていた青年は「よし、完成」と呟くと、サマリの方へ向き直り小さな器を差し出した。

「まずはこれ飲んで、落ち着こうか」

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少し濁ったクリーム色のスープが湯気をあげていて、美味しそうな匂いを運んできた。

サマリはそっと器を受け取ると、今度はゆっくりと口に含んだ。一口飲んだ所で顔をあげ、こちらを穏やかに見つめるサーリーに、満面の笑顔を向けた。

「美味しい!!」

次には一気にスープを飲み干して、器を持つ手を膝に下げると、大きな深呼吸をした。

サーリーは黙ってその様子を見ていたが、空の器を取るともう一杯よそってくれた。

「俺はサーリー。此処の絨毯屋の息子さ。」

そう言ってようやく自分もサマリの目の前に腰を下ろし、胡座をかいた。

「オアシスの村って随分遠いだろ。祭りでも観に来たのか?」

遠い場所から来たと言う少女を羨望の眼差しで見つめ、サーリーは、知らないと首を振るサマリに『今晩遅くから明日一日、マッカの街最大の祭りが開かれる』事を教えてくれた。

サマリは二杯目のスープも綺麗に飲み干す。

胡座に頬杖をつきながらのんびりこちらを眺めていたサーリーは、サマリが飲み終わったのを見届けると腰を上げた。

「俺さ、今から食堂の手伝いがあって、出かけないといけないんだ。えっと、サマリ、だっけ?お前も来る?まだ腹減ってるだろ」

この青年は良い人だ、と直感に従って行動する事にしたサマリは、大きく彼に頷いた。

背負って来た荷物をどうするか非常に悩んだが、サーリーを信じこの家に置かせてもらう事にして、腰のバックだけ持って立ち上がった。

          🌹

最初に足を踏み入れた時に感じたマッカの街の華やいだ雰囲気は、夜から始まる祭りのせいでもあった。人々は準備に余念がなく、街の至る所にランタンが飾られ始めていた。

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「俺さ、店番の無い日は食堂で働いてるんだ。」

サーリーは、人混みの中を遅れまいと懸命についてくるサマリに向かって、そんな事を言った。

街の中央広場からすぐの開けた場所に、サーリーが働く食堂があった。店は2階にあり、客席は少ないものの階下に広場を見渡せる素晴らしい立地だ。

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店のカウンターの奥を覗くと、食堂の女主人が忙しそうに下拵えをしている。サーリーの姿を認めると、嬉しそうに手招きをした。しかし、その隣に立つサマリを見ると苦笑いをして

「あんたは、まぁ〜たお腹を空かせた子供を拾って来たのかい!」

と呆れた声で言った。f:id:solz29dq10:20220205051210j:image

        続く

 


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