「う、うーん。ん?」
朝の日差しがサマリを照りつけ、眩しくて目が覚めた。
昨夜色んな事があって、サマリは地べたにそのまま倒れるように寝てしまったのだが、髪に付く砂が煩わしいだけで、身体はいたって元気だ。
疲れたのは気持ちのほう。
これからすべき事は決まっているが、それまでに済まさなければいけない事が沢山あった。
むくりと起き上がり、周囲を見渡す。
捲れ上がった天幕。ひび割れから水の漏れ出す樽。途中からポッキリと折れた椰子の木。花弁を散らした白い花。
そして、光を失い、枯れかけた命の草。
岩壁は見慣れた形とは様を変え、崩れた土が盛り上がっていた。滲み出て流れていた水は、今は一滴も流れていない。僅かに水の染みた岩壁がその面影を残すのみだった。
サマリはそっと岩壁に手を当てた。
ざらりとした土が、白い手に触れる。
(夢じゃなかった・・)
そっと目を伏せると、長い睫毛が震えた。
樽に残っていた水で顔を洗うと、朝御飯だ。
椰子の実の汁を飲み、果実を軽く齧りながらサマリは傍らの枯れかけた命の草の葉をそっと撫でた。
リヤハは水を止めたことに満足して帰っていったが、オアシスの村の存亡を左右する程に大事な命の種から生えてきたこの草は、枯れても価値があるのではないだろうか?
そう考えたサマリは果実の残りを口に詰め込むと、ナージフから貰った短剣を取り出して命の草を刈り始めた。
辺りに生えていた全ての葉を借り、軽く紐で縛ると、乾かす為に天幕の端からぶら下げる。
ついでに根っこも取り出し、それも乾燥させる。
命の種から生えたといわれる草の他に、サマリが大きくなってからソルが持ってきてくれた別の草の中にも、光を放つものがあった。
それも、取り敢えず掘り出して乾燥させる。
その作業を黙々とこなしていたら、太陽は天辺まで昇っていた。
(ふぅ。思ったより時間がかかってしまったわ。早く長老の所に行かなくちゃ)
一通り、草を縛って紐に結びつけると、軽く手を払い合わせてる砂を落とす。
今日は空気も乾燥気味で、きっとすぐに乾くだろう。
天幕と遺跡の柱との間に縄が張られ、そこに綺麗に命の草が干された景色を満足そうに眺める。
最初の目的地はこの遺跡の深部なので、特に心配な事はなかった。
長老が教えてくれて、長年学んできた古代文字を読み、譜を詠めばいい。
サマリはそう自分に言い聞かせる。
まずは、昨夜起こった出来事を、長老に話さなければならない。
サマリは残り少なくなった樽の水を掬って一口飲んだ。
(村のオアシスの水はそんな急に無くならないと思うけど・・。毎回水を運んで登ってくるのは厳しいわ。私はやっぱり、此処に長くいられないわね)
水面に暗く映し出される自分の顔を見つめながら、サマリはそう呟いた。
いつもの通りに神殿の外側の急斜面を器用に降りて、村へと繋がる倒壊した柱を潜り、出入り口まで辿り着いた。
長老の所へ行こうと、顔を上げると、その長老本人が独り所在なさげに立っていた。
「長老?私、今丁度長老のところに・・」
「おお!良かった、鳥の子や!無事だったか」
心底ホッとしたような表情で、長老は足早にサマリの元へやってきて、サマリの頬を両手で挟み顔を見つめた。
続く
🌹第3章始まりました。プレイベも楽しいですが、こちらもよろしくお願いします✨