33.マッカの街


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気がついた時、サマリは一人だった。

マッカの正門から程近い外壁の脇に転がっていた。

「イッタタタタ・・・」

身体中が軋んで、すぐには起き上がれない。手足を庇いながらようやく砂の上に座り、自分の身体を眺めると、腰回りに赤紫のあざがくっきり出来ている。(なにこれ・・ここどこ。どうなってるの)と、サマリは形の良い眉を顰めた。身体が軋むだけで特に異常は無いし、紛失した荷物は無さそうで、とりあえずホッとする。

「ソル?・・・ソル?」

周りを見回して声を上げてみたが、ソルの姿は見つからなかった。

(ここは何処なんだろう?)

サマリは自分の状況を把握出来ていない。旅立ちの準備をしていた記憶はあるのだが。気を失った時は、オアシスの神殿の上に居たからだ。

ボサボサの髪のまま、荷物を担ぎ直す。 

(喉が渇いたわ) 

大きな土壁にぐるっと周囲を囲まれた街は、正門へ通じる道に人の流れがあり、サマリはそこに横から紛れる。特に誰かに見咎められる事もなく、すんなり街に入る事ができた。

 

マッカの街が砂漠の乾燥地帯に栄えたのは、西に海を望み、海での海外との交易が成り立つ所にあった為だ。ここは東西の流通の要として多くの商人が出入りした。金、香、絹、宝石、人も物も、あらゆるものがこの街を経由していく。

中心に位置する神殿の長が、人心を掌握し、王のような役割を果たす商業都市だ。

 

「うわー、すごい・・・」

仕事の為に多くの者が足早に通り過ぎる。人々は活気に溢れている。

街に入り、まず驚いたのは、多種多様の色んな肌の色の者たちが、当たり前のように同じ空間を行き来している事だった。

誰も、サマリに目を止めたり、奇異の眼を向けない。このサマリの金髪も、白い肌も、ここでは全く珍しいものではなかったのだ。

(私、私、この街が好きかも!!)

身体の痛みが些細に思えるほど、元気が出てくる。

「すみません、この街は何という街ですか」

サマリが門番の男に訊ねると、予想通りの答えが返ってきた。

「ん?お前、ここがマッカだとわからずに入ってきたのか?」

怪しんで身元を改めようとする門番を軽くかわし、その場を離れる。

(ソルが連れていくと言ったのは本当だったのね!でも一体どうやって?)

サマリは、自分が空を飛んで来たなどとは想像もつかない。移動手段は後でソルに聞けば良い、とサマリは大胆になっていた。疑問を解くよりも先に、この街の華やかさと自由さに興奮して、細かい事は何も気にならなかった。

 

サマリは井戸を探していた。とにかく喉がカラカラで、お腹も減った。出来れば、顔も洗いたい。

サマリは今まで、湧水のお陰で生活水に困った事がなかった。実はそれがこの上もなく贅沢な事なのだと、サマリは知らなかった。

小さい頃からとにかく体力だけはあるので、ふらふらと街を彷徨い歩き井戸を探したが見つからない。余所者のサマリはいつのまにか迷子になり、路地裏へ迷い込んでいた。 

「困ったわ・・」

思わず声が出てしまっていた。

すると、近くでたむろしていた怪しげな男の一人が近づいて来た。

「お前見ない顔だな。誰の許可貰って入って来たんだよ」

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明らかに値踏みをするような視線で見られ、サマリの警戒心は一気に跳ね上がる。

「・・・」

「返事も出来ないってか?へぇ、汚いなりをしてるけど、よくよく見れば上玉じゃねぇか?」

(どれどれ?)と数人の男が集まってサマリを取り囲む。

男達は、金の腕輪と胸元のネックレスに目を止めて、それに手を伸ばそうとした。
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「イヤッ!!」

バシッ!と咄嗟にその手を払い除けると、ならず者達は怒り立つ。

「黙ってそれを渡せってんだよ!」

正直、もし武器を取ることになっても負ける気はしなかった。ただ、今迄実戦というものをした事が無く、ナージフ以外を相手にどう動いたら良いのかわからなかったのだ。

(逃げられるかな)

迷い込んだ狭い路地裏で、男3人にがっちり取り囲まれ、身動きが取れない。あまり大事にして街に居づらくなっても困る。

それをならず者たちは、怯えていると勘違いしたらしい。 

再び手が伸びて来て、いよいよかと腰の短剣の束を握りしめた時、止めに入る声がしてみんなの動きが止まった。

「お前ら、女の子相手に何やってる!やめろよ!」

頭と腰に鮮やかなオレンジ色の布を巻き、濃い青の上着を着た背の高い青年が、こちらに走ってくるのが見えた。

しかし、ならず者達は面倒臭そうな顔をしただけで、サマリを見逃してくれそうにない。

「サーリー、邪魔すんじゃねぇよ!お前は大人しく安物の絨毯でも売ってろ!」

彼らは既知の間柄のようだ。嘲笑が路地裏に響き、サマリは意を決した。

サーリーと呼ばれた青年は、ならず者達に怯む事なくこちらへ走ってくる。

その方向を彼らが見て身構えたので、サマリの方には隙が生まれた。

 

         続く


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