早速、長老は、自宅にパピルスを取りに帰ることにした。
サマリもなんとなく着いていこうと立ち上がった。
ラウダにも会って話をしておきたかった。
村の中心に近づいて、サマリは注意深く周りを見渡した。忙しそうな日常。長老を見かけた村人達が笑顔で会釈する。それはいつもの光景だ。
村の様子はそんなに変わりないように見えた。
ふと上空に動きを感じて視線を上げると、コチラに真っ直ぐに向かって来る生き物が視界に入った。
広大な空を背に、キラキラ輝く小さな黄色い鳥。
「長老、先に行っててくれる?ソルが戻ってきたの!」
「うむ。探す時間もあるだろうから、ゆっくりおいで」
長老はそう言って、そのまま歩いて行った。
サマリは、空いた屋台の脇に移動して、大きな花籠の前でソルを待った。
(一晩で帰ってくるのは珍しいかも)
「お帰り、ソル」
サマリは笑顔で手を伸ばす。
ソルはいつも帰宅時に嘴に何かを咥えてくる。この日も、サマリの差し出した手のひらにポトリと小さな塊を落とした。
「何処まで遊びに行ってきたの?これは何?」
ソルは満足そうにサマリの目の前でクルクルと宙返りをして、喜びを表現している。
サマリは左手でそれをつまみ、目の前にかざす。
コレはなんだろう。
異質な、なにかの、鍵?
サマリはその小さな塊を眺めながら黙り込んだ。
それと同時に、口に咥えたモノから解放されたソルは、いつものようにうるさく囀り始めた。
『ピー、ピピピピ、ピー!
・・・ちゃん、サマリちゃん!
私の可愛いサマリちゃん、良い子にしてたかしら、ピーッピピピピ、そりゃ私の子だから良い子にきまってるわ。もう、今日も可愛いわ、ピピー!見てご覧なさい、この輝く金の髪、ピーピピピーッ、私の宝物!こんな愛しい子を残して出かけなきゃ行けないアタチを許してね。今日もお詫びにプレゼント持ってきたのよ。ピーッピッピッ、いつも伝えられなくて、もどかしいわね。あーん、瞳がキラキラだわ!ピピー!キラッキラよ!可愛いサマリちゃん。人間は何故私達の言葉を理解できないのかしらね。本当に不便。ピピピピ、ピピッ!でも良いのよ、私のサマリちゃんへの愛が変わる事はないの。んもー、今日はそんなにアタチを見つめてくれて嬉しい!ピピー!生ける宝石のサマリちゃん、アタチの宝物!えー何よ何よ、今日は随分見つめてくれるのね。ピピーッ!寂しかったでちゅか?サマリちゃん、良い子良い子ね、ピピッ!ピピピピ!あら、周りを見回してどうしたの?今はアタチとサマリちゃんしか此処らへんにはいないでしょう。ピピッ!』
サマリは宙をクルクル飛び回り囀り続けるソルに恐る恐る声をかけた。いつもは大きな独り言でしかなかった言葉を、ソル本人に向けて。
「ソル・・わかる・・どうして急に・・」
『ピ?』
「ソルが何言ってるのか、解る・・」
『ピピッ?・・サマリちゃん?』
「うん」
戸惑った泣き笑いのような表情で、サマリは再びソルに手を伸ばした。
ソルがその手にそっと乗ると、サマリは手を顔の近くに寄せて、長いまつ毛を伏せ、ソルに頬擦りをした。ソルもいつものようにグイグイ頭を擦り付けて、サマリヘ愛情表現を示す。
「ソル、今までもずっとこうして私に話しかけてた?」
『そうよ、そうよ、サマリちゃん!ピピ!私の可愛い愛しい子!ピピーッ!』
しばらくして落ち着くと、それは念話のようなものだと思われた。直接サマリの耳には、ピーピーとした囀りが聞こえているだけ。ソルが人の言葉を話せるようになったと言うよりは、サマリが意味を理解出来るようになったのだ。
一昨日、ソルが遊びに行く前は、まだ会話など出来なかった。
考えられる事は、ただ一つ。
リヤハが自分にかけた風の精霊の守りのせいだ。
(あぁ、この先どんな困難が降り掛かろうとも、私はこれだけで精霊を許せる!ソルと一緒に、どんな事も乗り越えてみせるわ)
続く