18.突風

太陽は燦々と大地に降り注ぎ、大地は熱を蓄える。ゆらゆらと陽炎が昇る赤い大地に、その日は珍しく激しい風が吹き抜けた。

 

岩砂漠をうごめくモンスター達が、不思議そうに天を仰いだ。

 

丁度その頃。サマリは長老と楽しい遺跡の話がだいぶ進み、少し休憩しようかといった頃合いだった。

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「サマリ、今日はだいぶ進んだなぁ?この後は泊まって行くじゃろ?」

長老は当然といった様子でサマリに話しかけた。

サマリもニコニコと応対して大きく頷く。

「おばさんの『すぐおなかが空く料理』を食べられるの??」

嬉しそうに答えると、大きな紫色の瞳がキラキラと輝く。

時折、サマリは不思議な言葉の言い回しをすることがある。

長老は、それがサマリには「とても美味しい料理」を意味すると知っていたので、相合を崩して大きく頷いた。

 

 

サマリが立ち上がろうとして椅子から腰を浮かした瞬間、ぐぁぁぁぁんという凄まじい音と共にオアシスの村に突風が吹き、すぐに止んだ。

古い家などは屋根が大きく傾いで、数枚のヤシの葉が飛んでいったが、あまりに一瞬の事で首を傾げるばかりだ。

村人の誰もが訝しんでキョロキョロと辺りを眺めたが、再び何事もなかったように作業に取り掛かり、日常が続いていく。

 

サマリも長老も、大きな音に驚いて周りを見渡したが、石造りの家はそんなに風を感じる事もなく、特に大きな被害報告も無さそうだ。

 

サマリは中途半端に椅子から腰を浮かしたままだったが、ハッと我に帰り立ち上がった。

なんとなく、嫌な気配がする。

出来れば、遺跡の家(家と言っても粗末な敷物があるだけの場所)に帰りたいが、夕飯に招かれたら行かない手はない。

 

サマリが普段口にしているものより何倍も美味しいものが、食べられるのだ。

ソルが火を通した物を嫌う為、普段のサマリは専ら草や果物などの生物を口にしている。けれど、時折村で食べさせて貰える肉も、魚も、大好物だ。

火の通ったモノは柔らかくて味があって美味しい。

 

「長老、私、おばさんの手伝いをして来るわ。ラウダちゃんもきっと忙しくしていると思うのよ」

何となく、座ったままでいるのが落ち着かなくなって、サマリは手伝いを申し出た。

この表現できない胸騒ぎが勘違いだといい。

忙しく身体を動かせば、きっと忘れてしまう程度のものに違いない。

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「鳥の子は良い子だな。手伝いを頼むよ。

私はまだ話し足りないが、仕方ない。続きはまたにしよう」

長老はそう言って、サマリに優しい笑みを向けた。 

こそばゆい気持ちが沸き上がり、サマリは少しだけはにかむと、隣の台所へ向かった。

 

厳しく、優しく、真摯に向き合ってくれる長老は、人間の中で一番大切な人。

いつだってサマリは、長老の為に何かしたいと願っていた。

 

風は止み、先程何が起こったかなど、殆どの人が忘れてしまった。

太陽はてっぺんを通り過ぎ、反対側へ向かって傾き始める。

空気の動きがとまり、家畜は鳴りを潜める。

普段通りなのは人間だけ。

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異変が、すぐそこまで来ていた。

 

 

          続く

 

🌹皆さん大型アップデート、楽しんでいますか?

私もマイペースに進めて行きたいと思います。