『帰宅するサマリを引き留めてはいけない』
これは、ラウダが物心ついた時からずっと身に染みついているオアシスの村人達全員の不文律。
自分の祖父である長老自身が、そう決めたと聞いている。
どうしてなのか、小さい頃尋ねた記憶があったけれど、答えをもらえたのかどうか、もう忘れてしまっていた。
ここから遺跡迄は、少し歩かなければいけない。オアシスの縁を迂回するように、人家のない場所を通っていく筈だ。
月明かりが柔らかくサマリを照らす。
サマリは踊るような軽い足取りで、闇夜に消えて行った。
中へ戻ったら、サマリが帰った事を祖父達に伝えなければ、とラウダが踵を返すと、いつのまにか背後に長老が立っていた。
「お、おじいちゃん!?いつからそこに?」
いつになく険しい表情をしていた気がしたが、思い違いだったかもしれない。
優しい、いつもの祖父がそこにいて、
「鳥の子には酷な話だったな。私が後ろ盾になって持参金を出しても良いのだがな。しかし、いつまでもこの村に留めおく事は無理かもしれん。あの子が居なくなったら、また昔のように村に・・が・・。それは避けたいものだ・・。いつかは、ここから旅立つのだろうが、少しでも長く・・」
と、そう呟いた。
ラウダに向けて言ったのか、独り言だったのかわからない。
「サマリちゃんが居なくなるのはイヤよ!」
と、ラウダが言うと、長老はラウダの肩をそっと抱いて、小さく頷いた。
「私も、ずっとこの村にいて欲しいと思っておるよ。鳥の子は、私が拾ったのだから私の娘でもある」
ラウダが祖父の顔を見上げると、長老は笑って中へ入るように促した。
砂漠といっても、冬の夜は冷える。遮るもののない大地の温度差は激しく、10度を下回ることもあるのだ。
いつも疑問に思っている事を、今日もラウダは言葉に出来ずに飲み込んだ。
「どうしてサマリちゃんは遺跡に住んでいるの?どうして他の村人は入っちゃいけないの?サマリちゃんって、何者なの?」
続く
🌹あれ?
24話で一区切りのはずが、まだここ?
本日のオマケというか備忘録。
サマリ 17歳くらい
長老 59歳 と、その家族
息子(村長) 42歳 妻 39歳
孫が5人 長男 アンワル 23歳
次男 カーミル 22歳
三男 スウード 18歳
長女 ラウダ 16歳
四男 デイヤー 9歳
ナージフ 32歳くらい
イブン 20歳