サマリは、ソルからのお土産の物体をとりあえず腰の袋に仕舞い込んだ。それから、ソルに昨日からの出来事を手早く伝えた。ソルは人間の言葉を完璧に理解していて、会話は比較的スムーズに行われた。
会話出来ると知ったソルが、サマリの言葉に被せるように、今までの想いや出来事を囀るので、それをいちいち留めるのに手間取った以外は。
しかも、側から見るとサマリが独り言を大きな声で言っているようにしか見えない。
(これは・・ちょっと恥ずかしいかも。あまり人前では話せないわね。誰かに理解してもらうのも難しそう)
仕方ないので、この事実は自分とソルの秘密にしておく事にした。
『それにしても、ピーピピピ、ずっと寝てて神殿を放置してたくせに、あいつは、ゲフンゲフン、ピピッ!リヤハ様は、なぁーにを今更!!いまっさらよっ!ピー!』
大体の事情を理解したソルは憤る。
リヤハは、ソルが悪い様な事を言っていたが、こちらはこちらで事情があるらしい。
その辺りの事は、おいおい訊くとしよう、とサマリは思った。今は、旅立ちの準備が必要だ。
旅立つ時間は早い方が良いに決まっているが、もう夕方近い。神殿の奥はどの様な状態なのか、サマリには皆目見当も付かない。
「長老の所へ行ってパピルスを貰ったら、すぐに遺跡の地下へ行きたいの。案内してくれる?」
長老の家へ向かいながら、肩に止まるソルにそっと話しかけてると、力強い返事が返って来た。
『お安い御用よ、サマリちゃん!ピピッ!このアタチが、バッチリ案内するから!』
ソルがふんぞり返っているように見えるのは気のせいだろうか。こんなに心強い存在がそばに居て、サマリはかつてない程の安心感を味わっていた。
ソルは今までも常に囀っている鳥だったが、こうして実際に話が理解できるようになると、うるさい。
その内容は大した事はなくて、ずっとサマリのことが可愛い、可愛い、と繰り返している。
身体の大きさから、サマリは自分が飼い主の様な気持ちでいたが、実際はその逆。「自分が養われていた」という事に改めて気がつき苦笑する。たしかに、そうだ。食べ物も、住処も、気がついた時には当たり前のように享受していたけれど、赤ん坊がこれを一人で出来た筈がない。
(ソルは私のお母さんなんだ・・。だから長老は私を鳥の子と呼ぶのね。でも、私の本当のお母さんは・・・)
神殿の地下での用事が終わり、この村を旅立つ時には、両親の墓参りに行こうとサマリは誓った。
生憎、サマリが長老の家に着いた時、ラウダは夕飯作りの手伝いに忙しかった。
笑顔でサマリに手を振ってくれたけれど、奥から母親のあれこれ指図する声が聞こえてきて、あちこち振り向いて返事をしていた。
「長老のところにお邪魔するわね」
ラウダに軽く声をかけて、一人と一羽は奥へと進む。
『ピーピピピ、サマリちゃん、アタチはこの家はあまり好きじゃなくってよ!ピピ!』
ソルは家の中に入ってからは、サマリの右肩に止まって比較的大人しかった。
「え?どうして?」
そう言われてみると、サマリはソルと一緒にここを訪れた記憶がほぼない。
黄色の羽根が心なしか総毛羽立って、膨れて見える。警戒している証拠だ。
『ここは盗人の家じゃないのさ!ピピ!まぁ、正確には、盗人の子孫の家ね!ピーー!ピ!嫌だわ、嫌だわ!ほら、そこの柱は、神殿の別館の石よ!!ドロボー!ドロボー!』
敵対心を露わにして囀るソル。
サマリはなすすべもなく聴き入ってしまう。
長老の家が神殿の石を使っていた事も知らなかったし、神殿に別館があったのも驚きだ。
これからサマリは、しばらくの間ソルに驚かされ続けるのだろう。
ただ、大好きな長老一家の事を泥棒呼ばわりされるのは少し辛い。ソルの言葉が解るのが自分だけで本当に良かったと、サマリは胸を撫で下ろした。
コンコン
長老の部屋の扉を軽く叩いて、サマリは中へ入っていった。
「おぅ、鳥の子待っていたよ。さあ、これが私の宝ものパピルスとい・・・う・・」
『ピピ!』
奥の箱から大事そうに巻物を取り出した長老は、手元のそれを慈しむように眺めて、サマリの入ってきた扉の方へ視線を上げた。
その視線の先、サマリの右肩にソルを認め、一瞬長老は凍りつき、あろうことかソルに敬語を使った。
「いらっしゃいませ・・」
続く