64.ただいまオアシスの村

 


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サマリがオアシスの村を旅立って幾日が過ぎただろうか。

突然村長宅の駱駝(ラクダ)が、小屋の柱ごと居なくなったその夜であり、大騒ぎになったのはまだ記憶に新しい。

しかし、長老が自ら「その駱駝は自分がサマリに与えたものだ」と言い張った為、村の男たちはマモノの襲来だなんだと言いながらも騒ぎはすぐに治った。長老と、その息子の村長の家族が、黙って小屋の修理をするのを、村人は受け入れるしかなかった。

長老が孫娘のように可愛がっていた孤児の少女は、何処へ行ってしまったのか。口さがない者たちは噂話のネタにしたが、長老は「サマリは大事な用事で旅に出た」としか答えてはくれなかった。

サマリが居ない事を気に留めるのは僅かな人だけであり、村人達は何事もなく日々を過ごしていた。しかし、目に見える形で異変に気がつく者が出始め、村には静かに動揺が広がっていた。

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オアシスに生息する魚を売って生業とする者達が、オアシスほとりに何十匹という魚が打ち上げられているのを見つけたのが始まりだった。

普段あまり近付く事のない、崩れた神殿側のヤシの木が、複数倒れているのを見たのはその数日後。そのうち、水汲みを仕事とする子ども達が、いつもよりほんの少し、湖の水が減っている事に気がついた。まだまだ湖は綺麗な水を湛えていたが、数人の子供がそれを親に話したことから、それは村長の耳に届いた。

村の命であるオアシスに、何かが起こっている。

事情を知る長老は、自分が想像していた以上に変化が早い事を危惧した。

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サマリは、何十年か、何百年かの単位で話をしていたが、これでは数年のうちにオアシスは干上がってしまうのではなかろうか。

対策と調査をしようと腰を上げようとした息子を、長老は厳しい顔で引き留めた。

「サマリが戻るまで、ことを荒立てないで待って欲しい」

尊敬する父親の言う事だったが、村長も何もしない訳にはいかなかった。この数日、親子喧嘩のような会議が二人の間で起こっており、それは百人にも満たない小さな村全体に不穏な空気を伝染させていた。

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少しだけ休憩、と思っていたサマリとサーリーの二人だったが、やはり気の疲れ身体の疲れがどっと出た為か、目が覚めたのは翌日の早朝だった。ほぼ丸一日寝てしまったサマリは、慌ててサーリーに村へ行く事を提案した。

「こ、ここを降りるのか!?」

それなりに体力に自信のあったサーリーだが、さすがに崖を降りると言われて躊躇した。毎日急な岩壁を昇り降りしていたと聞いて、サーリーは改めてサマリの顔を覗き込んだ。

「ん?」

キョトンと見つめ返すサマリは、金の髪が目立つくらいで至って普通の女の子だ。その白い肌も、紫の瞳も、交易の街マッカに育ったサーリーには珍しいものではなかった。しかしこの目の前の少女は、自分の知っている家の中に閉じこもっている女性達とは違った。自分と同じ下層階級の女達は、男性顔負けに働くが、サマリの体力は底なし。負けてはいられなかった。

サマリは、サーリーに良い足場を教えながら、自分が先になって軽々と神殿の外壁を伝い降りた。サーリーの方は必死で、あちこち擦り傷を作りながらそれでもなんとか後を追う。

二人は岩壁を降りきると、崩れた神殿の脇のオアシスに立ち寄って喉を潤した。

「帰ってきた感じがするわ」

口の周りを手でおおざっぱに拭いながら、サマリは茂みの向こうの村の方角に視線を伸ばした。隣でサーリーもオアシスの水を掬って飲み、それがしょっぱくない事に感心する。

「この水で料理が作れたらな」

独り言が口から出て、二人は顔を見合わせて笑った。

長老の家を目指し二人連れ立って歩いて行くと、時折村人とすれ違った。

「サマリちゃん!?帰って来てたんだね」

「おじさん、ただいま!」

隣に見知らぬ青年を伴ったサマリに皆好奇の視線を向けたが、そんな事はお構いなしに歩を進める。

村の奥のただ一つの石造りの家、長老宅に辿り着くと、丁度庭の花を摘んでいた孫娘のラウダがそれに気づいた。すぐに花籠を放り出してサマリに駆け寄り、半泣きで抱きしめる。

「サマリちゃん!もう!何処へ行っていたのよ!」

村で一番の女友達。黙って居なくなってどれだけ心配させたことか。

「ただいま。ごめんね」

その背中を撫でながら微笑むサマリを、サーリーも嬉しそうに眺めた。

         続く

 


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