14.生い立ち

今朝方、サマリとナージフ、イブンとの間に起こった小さな騒ぎ。それを長老が知らないわけがなく、サマリは密かに怒られるのだと思って少し怯えていた。

別に長老が怖い訳ではない。長老は普段、孫娘よりもサマリに優しい。 

怯えていたのは、自分が人を傷つけた、悪い事をした、という自覚があった為だ。

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「今日はどうしたのよ、サマリちゃんたら」

何も知らないラウダが、自分をこっそり盾にするサマリに気がついて苦笑いした。

「う、うん」

サマリの返答はキレが悪い。

それをみた長老は、悪戯そうな目でサマリを見た。

 

「ナージフが来ている間は、鳥の子は此処に近づかないからなぁ」

と、長老はそんな事を言った。今朝の事に触れる気はないらしい。

それがわかるとホッとして、ようやく笑顔が溢れる。


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サマリは、周りの人の気持ちに敏感だ。

自分が、長老の一声で村の人から大事にされている事をしっている。そして、同じくらい、距離を置かれている事も。

なるべく、みんなと仲良くなりたい、遊びたいと願ったけれど、何処かで違う自分をいつも感じていた。

 

ありがたい事に、長老を始め村人達から今までも何度か「うちの子にならないか?」という誘いがあった。

けれど、サマリは遺跡から村の中心に居を移すことだけは考えられなかった。

もの心ついた時から、いや、ヨチヨチ歩きの頃から、サマリはずっと一人だ。 

ヒトとしては一人だったけれど、サマリにはソルがいた。

記憶は朧気だけれど、毎日ソルがそばにいて、ソルがくれる種や果物を食べて、生きてきた。

なんの疑問も無く。

時折り、気が向くと遺跡の外に出て、ラウダや村の子達と遊ぶ。

言葉はそこで自然に覚えた。

日が暮れると、ソルが迎えにくる。

そして、サマリは遺跡へ帰っていく。

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長老はそんなサマリをずっと気にかけて、目をかけてきた。まさに、長老はサマリの親代わりだ。

長老が要所要所で世話をしてくれていたから、人としての生き方をする事が出来た。

それがなければ、サマリはきっと魔物と同じ野生児になっていただろうし、この歳まで生きている事すら、危うかったかもしれない。

 

「どうだ、サマリ、あれから文字の解読は進んだかな?」
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と、いつものように長老は話を聞きたがった。

「最近はあまり進んでいなくて。今読んでいる西側の柱の裏の所は、延々と月の女神を褒め讃えているわ。」

「ほうほう!そこのところ、もう少し詳しく聞きたいのぅ。この前の場所と、話の関連性はあったかな。ほれ、鳥の子や、座って話そう」

長老は、自分の机まで行くと、きちんと重ねられた薄い木片を大事そうに抱えて戻ってきた。

そして、自ら椅子を勧めると、可愛くて仕方がないといった様子でサマリを見つめた。

 

 

          続く