11.空気の刃

⭐️昨日、すぎやまこういちさんがご逝去されました。ドラクエのコンサート、先生の指揮で聴きたかった!

私達に出来ることは、いつまでも忘れない事。

これからも、ドラクエ10 を楽しみ、先生の素晴らしい音楽と共に。

   ・・・そして、空へ、伝説へ。

⭐️ご冥福を心よりお祈り申し上げます。⭐️

 

 

          🌹

 

「サマリ!!しっかりしろ!」

 

シュッと空気が鋭くなり、サマリの周りに見えない刃が無数に舞い散る。

 

小さな身体で全力疾走してきたナージフが、乱暴にイブンとサマリの間に割って入り、サマリの顔を覆うように彼女を抱きしめたのと、ほぼ同時だった。

 

「・・・あ」

ナージフが勢いよく触れた振動と、いつもまとわりついている時に感じていたのと同じナージフの気配と匂いが、サマリの意識を取り戻させた。

ゆっくり紫色の瞳に光が戻り、ナージフの姿を映し出す。

 

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ナージフの腕と顔など、肌が露出した場所に、無数の刃物で切られた様な傷が出来ていた。

頬から血が滲み、痛々しい。

 

次の瞬間、それは自分のせいだと理解したサマリは、じんわりと瞳に涙を浮かべた。

「あぁ!ナージル・・ごめんなさい!ナージル」

 

「大丈夫さ。こんなの舐めときゃ治る!」 

そう言って、ナージフは戯けてポーズをとった。

 

(隊長、顔の傷なのにどうやって舐めるつもりなんだろう)

と、周りの傭兵達は思ったが、誰もそれを突っ込める様な雰囲気ではなかった。

 

一方、訳がわからないのはイブンだった。

(自分が、この村を出ようと言ったのがいけなかったのか)

そしてそれがきっかけとなり、サマリに変化をもたらした。

瞬間の事でよくわからなかったが、つむじ風が足元から湧き上がり、それが身近な者に刃となって襲ったのだという事が想像出来た。

 

もし、ナージフが間に割って入り、サマリを正気つかせてくれなかったら、ターゲットは自分だったのだ。

自分だけではなく、周りにいた村人や仲間を巻き添えにしていたかもしれないし、この程度では済まなかったかもしれない。

 

そこまで考えついてイブンは血の気が引いた。

先輩がサマリを怖いと言った意味、一人で遺跡で暮らす意味。

この少女は、無意識に風の精霊を操るのだろうか。

単純で傭兵をするしか取り柄のない自分には、これ以上の事は考えたくなかった。

 

サマリは、グズグズと涙を浮かべながら血の滲むナージフの頬を自分の服の布で拭いた。

「お前は本当に泣き虫だなぁ」

もう大丈夫だよという様に、ナージフは自分の頬を拭くサマリの手を、そっと掴んで下に降ろした。

サマリを見つめる視線は何処までも優しい。

小さな子供をあやすように、薄い金の髪をワシャワシャと撫でる。

サマリはされるがままで、そこの空気が柔らかくなっていく。

 

大変な事が起きる寸前だったのに、ほかの傭兵達はそんな2人を見届けると、ホッと落ち着いた様子で、旅支度へ戻っていった。

 

何も知らないのは、自分だけだったのだと、イブンは茫然として暫くその場を動けなかった。

 

         続く

 

🌹ナージフというキャラがとても好きです。

とてもかっこいい役だと思っています!