12.慌ただしい別れ

「そろそろ出立したいと思うが、よろしいかな?」

先程ナージフと一緒にいた商人が、声をかけてきた。もう出立の時間だ。

なるべく移動が楽な、日が高くなる前に出発したい。それは傭兵達にとっても同じ思いだ。

 

「今すぐに!」

ナージフは、すぐさま商人に返事をする。

 

自分の腕を掴んで離さないサマリを宥めるように、ナージフは告げた。

 

「いいか?今日はソルが居ないな?だから今から長老の所へ行くんだ。本当はそこまで連れて行ってやりたいが、一人で行けるな?」

「うん、大丈夫よ。ちゃんと出来るから。

だから、心配しないで、出発して。そして、また来てね。待ってるから。」

 

最後まで言い終えると、サマリはそっと、掴んでいた腕から手を離した。

その離した手は、少しだけ宙をさまよう。

長いまつ毛を伏せるように俯いて、もう片方の手で自分の腕を掴み、胸の前に重ねた。

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サマリの表情が落ち着いたのを確認すると、ナージフは居住まいを正し、顔をあげた。

 

 

「イブン、ほら、いくぞ!」

イブンの肩をポンと叩いて、ナージフは歩き始めた。

多くの荷物を積み込んだラクダと、商人たちのいる方向へ。そして視線は砂漠の彼方へ。

バラけていた傭兵達も、その姿が視界に入るな否や、統率の取れた動きで出立し始めた。

 

我にかえり、それを追うように歩きだそうとして、イブンはサマリに声をかけた。

「サマリちゃん、ごめんよ。俺、そんなつもりじゃ・・」

 

初めて少女の名前を呼んだ、とイブンは気がついた。

仲間の傭兵達に紛れて、表面上親しげに会話した事はあったけれど、まともに向き合った事など無かった。

勝手に可哀想だと思い、勝手に話を決めて、勝手に自分の掌中に収めようとした。

不意にイブンは、恥ずかしくなった。

 

サマリは(私の方こそごめんなさい)と、そっと首を振って、胸元で小さく手をふった。

口角は上がっていて、一生懸命笑おうとしているのが見てとれた。

 

隊商はすぐにオアシスを後にして、ゴツゴツとした岩と赤茶けた大地を進んでいく。

イブンはそれを追いかけるように走りはじめた。

ナージフは周りの指示に忙しい様子だ。

隊商に追いつき、持ち場に戻る。  

 

村が遠くなる。

 

イブンが堪え切れずに振り返ると、金の髪の少女が、涙を堪えながら精一杯の笑顔で手を振る姿が視界に映った。

 

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          続く

 

🌹第一章が終わりといった感じです。

これまだ、Twitterの1番目にもたどり着いてないんです。もう一幕村の話が続きます。

沢山撮影を手伝ってくれたケミンさん達は、いつになったら登場出来るんでしょうか??