隊商のオアシス滞在期間は毎回短い。
本当の次の目的地である大きな街に行くのは、早ければ早い方が良いからだ。
休息を取り、食料を補充し、水を確保する。
村人にとっても、旅人にとっても、慌ただしい数日が過ぎ去り、別れの時は訪れた。
今朝から、インコのソルの姿が見えない。
また何処かへ出かけているのだろうと、特に気にも止めず、サマリは一人でナージフ達の旅立ちを見送ることにした。
周りでは村人達も、沢山の異国の物や話を持って来てくれる隊商へ名残を惜しんでいた。
「また来てね、待ってるね」
もう何度目となるのか、数え切れないやり取り。
(もっと小さかった頃は、泣いて引き留めた事もあったなぁ)
サマリは毎回寂しさを堪えて、笑顔で傭兵達を送り出す。
その時、端の方にいたイブンが、他の仲間達の返事を遮るかの様にサマリに声をかけた。
少し、思い詰めた様子で、前のめりに言葉を紡ぎ出す。
「なぁ、オレらと一緒に、行かないか?
大きな街を、見てみないか?
それでさ、それで・・・」
(やだ・・・それ以上近づかないで)
サマリは一歩後退り、ラクダに積まれた荷物の布を握りしめた。
イブンは、思っていた事を一気に吐き出そうとして失敗し、言葉を詰まらせ、サマリの肩を掴もうと手を差し出した。
スッと身を翻し、固まった笑顔のまま数歩後ずさるサマリ。
「行かない。ソルがいるから」
返答は、つけいる隙もない程簡潔で、頑なだった。
傭兵達は冗談を返したりイブンを止める余裕もなく、目を見張った。
丁度、ナージフは雇い主である商人達と、次の目的地に向かう為の打ち合わせをしており、ここから少し離れた場所に居た。
両手いっぱいに包みを抱えて、荷造りの手伝いをしながら傭兵の配置を考えているようだ。
「じゃあ、あの鳥も一緒に連れて行けば事は簡単なんじゃないか?」
尚も畳み掛ける用に言い募るイブン。
身を乗り出すように、再びサマリへと手を伸ばした。
「俺達と一緒に行こう。一人で此処にいる理由なんて、ないじゃないか?お前は強いし、旅だって・・・」
「行かないったらっ!!」
大きく手を振り払い、怯えたように身を縮こまらせる。
その声は全てを拒絶する悲鳴にも似ていた。
誰もがその瞬間、凍りついたように動きを止め、黙り込んだ。
突然の大声に振り返り、サマリの変化に一早く気がついたのは、ナージフだった。
慌てて、自分の持っていた荷物を商人に押し付け、サマリ達に向かって走り出した。
サマリの足元の空気だけが動き始めたのを、ナージフは見逃さなかった。
サマリの表情は深い悲しみを湛えていたが、瞳は生気を失い何処も見ていない。
(やめて!私に触れないで!私は行かない!)
薄い金の髪が、ゆっくりと逆立ち初める。
「!?」
イブンも不穏な空気を感じ取ったが、咄嗟にどう対応して良いのかわからない。
村人や他の傭兵は皆「しまった!」という恐怖の表情を浮かべ、逃げ出そうと視線を泳がせた。
続く
🌹昨夜のレポは後日きちんと書きます。
週末もイベント続き。それを楽しみに一週間頑張ります✨。