「サマリ、腕を上げたな。今日はここまでにしようか」
ナージフはスッと武器をさげ、サマリに声をかけた。
張り詰めていた空気は一瞬で解けて、替わりに野次馬達の労を労う歓声が沸き起こった。
「ナージル!私、強くなった?」
サマリは無邪気にナージフの元へと駆け寄って顔を覗き込んだ。
「そうだな。逃げてばっかりだけどな」
そして、その言葉を聞くとすぐにシュンとなる。ナージフの一挙一投足に反応するサマリ。
「まだちょっと、怖いわ」
「いざという時は、武器を使わないとな?」
「逃げるのは、何とかなると思うのよ?」
(そんな意味で教えているんじゃないんだけどな?)
少しイライラして、ナージフは一人心の中で呟くと、人混みをかき分けてその場を離れた。
(今日の俺はどうかしてるな。何を動揺している。修行が足りないな)
この汚れた身体を洗い流したい。
そう思い、オアシスの方向へと歩き始めた。
それをみたサマリも、目の前でパチンと手を打って、唐突に声をあげた。
「私も帰る!」
何かを察したのか、ナージフを追いかけようとはしなかった。
ついさっきまで武器を持って戦っていたとは思えない、汗ひとつかかない様子のサマリ。
ナージフが野次馬の向こうに消えてしまうのを確認すると、自分は遺跡の方向へと歩き出した。
村人はサマリの進む方向を遮らないよう、スッと道を開けた。
和やかに声をかける村人達。
サマリもそれに笑顔で応える。
「おばさん、お料理はまたお預けだわ」
「そんなの気にしないで、またおいで」
「うん、ありがとう」
中にはヤシの実を差し出すものもいて、彼女が決して孤独では無いことは見てとれた。
その後ろ姿を、イブンはじっと見つめていた。
「なぁ、あの娘は、あんな村はずれに住んでいるのか?」
岩陰に消えた影を指差して、若者は仲間の傭兵に尋ねた。
「そうだよ。小さい頃からずっとそうさ。」
「ふぅん・・」
傭兵の一人が、苦笑いしながらイブンに告げた。
「イブン、変な気は起こさない方がいいぞ。サマリちゃんはいい子だが、やめておけ」
それは、サマリがナージフの可愛がっている弟子で、仲間にとっても娘のような存在だから、とイブンは理解した。
(別に変な気なんて起こしてねぇし。
あんな所に一人で住んでるなんて、可哀想だろうが。俺なら、今はこんな身分だけど、女の一人くらい養ってやれる)
その考えが頭から離れないまま、イブンは岩陰を見つめ続けた。
続く
🌹今日から10月。
楽しく過ごしたい!
素敵な事が沢山ありますように。