9.視線

「サマリ、腕を上げたな。今日はここまでにしようか」

ナージフはスッと武器をさげ、サマリに声をかけた。

張り詰めていた空気は一瞬で解けて、替わりに野次馬達の労を労う歓声が沸き起こった。

 

「ナージル!私、強くなった?」 

サマリは無邪気にナージフの元へと駆け寄って顔を覗き込んだ。

「そうだな。逃げてばっかりだけどな」

 

そして、その言葉を聞くとすぐにシュンとなる。ナージフの一挙一投足に反応するサマリ。

 

「まだちょっと、怖いわ」

「いざという時は、武器を使わないとな?」

「逃げるのは、何とかなると思うのよ?」

 

(そんな意味で教えているんじゃないんだけどな?)

少しイライラして、ナージフは一人心の中で呟くと、人混みをかき分けてその場を離れた。

 

(今日の俺はどうかしてるな。何を動揺している。修行が足りないな)

この汚れた身体を洗い流したい。

そう思い、オアシスの方向へと歩き始めた。

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それをみたサマリも、目の前でパチンと手を打って、唐突に声をあげた。

「私も帰る!」

何かを察したのか、ナージフを追いかけようとはしなかった。

ついさっきまで武器を持って戦っていたとは思えない、汗ひとつかかない様子のサマリ。

ナージフが野次馬の向こうに消えてしまうのを確認すると、自分は遺跡の方向へと歩き出した。

 

村人はサマリの進む方向を遮らないよう、スッと道を開けた。

和やかに声をかける村人達。

サマリもそれに笑顔で応える。

「おばさん、お料理はまたお預けだわ」

「そんなの気にしないで、またおいで」

「うん、ありがとう」

中にはヤシの実を差し出すものもいて、彼女が決して孤独では無いことは見てとれた。

 

その後ろ姿を、イブンはじっと見つめていた。

 

「なぁ、あの娘は、あんな村はずれに住んでいるのか?」

岩陰に消えた影を指差して、若者は仲間の傭兵に尋ねた。

 

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「そうだよ。小さい頃からずっとそうさ。」

「ふぅん・・」

 

傭兵の一人が、苦笑いしながらイブンに告げた。

「イブン、変な気は起こさない方がいいぞ。サマリちゃんはいい子だが、やめておけ」

 

それは、サマリがナージフの可愛がっている弟子で、仲間にとっても娘のような存在だから、とイブンは理解した。

 

(別に変な気なんて起こしてねぇし。

あんな所に一人で住んでるなんて、可哀想だろうが。俺なら、今はこんな身分だけど、女の一人くらい養ってやれる) 

 

その考えが頭から離れないまま、イブンは岩陰を見つめ続けた。

 

          続く

 

🌹今日から10月。

楽しく過ごしたい!

素敵な事が沢山ありますように。