暑く厳しい砂漠の旅の途中に訪れたオアシスの村で、傭兵達も緊張が少し緩んでいた。
一緒に野次馬をしていた傭兵仲間が、肩を寄せるように彼に近づいて、声を低めて話しかけてきた。
「イブン、お前も良く見ておけ?実際に魔物に襲われた時でさえ、隊長はあんなに苦労しないんだぜ?」
「え?それは、どういう・・」
意味なのだ、と問いかけようとして、イブンと呼ばれた若者は、同僚の傭兵の顔を見た。
傭兵は、クイッと顎を立ち合う二人の方に動かして、苦笑いを浮かべた。
ナージフの刃は、空気を切り裂き、何度も何度もサマリに迫っていた。
その度に、サマリは軽やかに身を翻す。
まるで風を味方につけているようだ。
イブンは、再び視線を戻そうとして、少し離れた崩れた遺跡に目を止めた。
いつもサマリと一緒にいる黄色いインコが、ジッと二人を見ているように見えた。
(あんな鳥に、手合わせは興味あんのかな?)
けれど、そんな事はすぐに忘れて、イブンは二人の手合わせの行方を見守った。
「疲れないんですかね、あの娘」
「そうなんだよな。あんなか弱そうなフリして、ちょっと、怖いだろ」
と、イブンの問いかけに傭兵が答えた。
(怖い?怖いってなんだよ。それでみんな腫れ物を触るように遠巻きにしてるのか?ナージフさんだけに懐いてるのはそのせいか?)
イブンは、若者特有の正義感で、サマリを守ってやりたいと感じた。
他とは違うんだというほんの少しの優越感と、憧れのナージフへの無意識の対抗心に、本人は気がついていない。
夕闇が押し迫り、村人達の頬を心地よい風が通り過ぎていく。
毎年毎回、少しずつサマリの身のこなしは軽やかになっていく。
それをずっと見てきた村人達は、いつの日かサマリがナージフに土を付けるだろう事を期待していた。
「サマリー!これで勝てたら、ウチの母ちゃんの夕飯奢ってやるぞー!」
「ちょっと、お前さん、勝手に決めないでおくれよ!サマリちゃーん、頑張るのよー!おばさん、腕を振るうわー!」
「なんだよ、結局良いんじゃねえか」
周りの村人は、おどけた夫婦のやりとりにどっと湧き上がった。
「おじさーん、おばさーん、その約束忘れないでね?」
視線はナージフを捉えたまま、サマリはそう答えた。
サマリは、おばさんの手の込んだ料理が並んでいる食卓を想像し、ニヤニヤが止まらなくなった。
真剣勝負の最中に余裕のある表情をされて、ナージフは機嫌を損ねた。
続く
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