8.前触れ

サマリはこの時点で、ナージフと違って全く息が上がっていない。

その細い身体の何処にそんな体力があるのか。

クルクルと地面を跳ね、ナージフの刃を交わす。

しかもサマリはこちらから攻撃を仕掛けようとはしなかった。

防戦一方。

 

彼女は、遊んでいるのだ。

紫の瞳が、生き生きと輝いている。

今、二人が真剣を持っていることは理解している。

けれど、倒そうとか、勝とうとか、そんな気持ちが全くない。

ナージフが疲れ果て、倒れるのを待っている。

そんな戦法なのだろうか。

 

「サマリ、もう少し真面目にやれ!」

ナージフは半月刀の束を握り直し、愛弟子を睨みつけた。

サマリは、いつになく怖い表情のナージフを見て、緩んだ頬を引き締め、次の攻撃に備えた。

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ナージフは、護身用にサマリに剣を覚えて欲しかった。

これから美しく成長し、一人で生活していく彼女が、自分の身を守れるように。

 

それなのに、いつも全く本気を出してこない事に、ナージフは苛立った。

サマリに怪我をさせたくない。

それもまた、ナージフの腕を鈍らせる。

技術的にはまだ半分も本気を出してはいない。けれど、体力的にはそろそろ限界だ。明日には旅立つ我が身が、疲れ果ててはいけないからだ。

そういう意味でこの試合は、普通に魔物を倒す事よりも難しかった。

 

(くそっ!人の気も知らないで!)

半ば強引に距離を詰め、ナージフの刃が懐まで届きそうになる。

お互いが技量を理解してこそ、サマリが自分の刃を避けると信じているからこその攻撃だった。

サマリはそれに応えて、攻撃を短剣で受けると、反動で背転しながらかなりの距離を取った。

 

ズザザザッと、着地点の砂を巻き上げて、サマリは体勢を崩すまいと踏ん張る。

すぐ背後には野次馬の村人が迫っていた。

 

いつもと違った様子のナージフに、村人達は敏感に反応した。ざわっとして村人達が危険を感じ、その場を離れようと小さな混乱が起こった。  

 

 

          続く

 

🌹バトルフォトが難しすぎて断念。

頭の中には沢山映像があるのになぁ?