5.小さな弟子の為に

隊商のオアシス滞在期間、サマリは毎日のようにナージフから武器の扱い方を習うようになる。

最初は子供のお遊びだった。

サマリは相手をして貰える事がただ嬉しくて、素直に言う事をきき、鍛錬し、期待に応えた。

 

砂漠の砂が水を吸うように、ナージフの伝える事を理解していった。

 

隊商の都合に合わせ、別れがすぐにやって来ても、また次の折り返しに彼らはオアシスの村を訪れる。

そのうちナージフは、オアシス経由の仕事をわざと選んで受ける様になっていた。

 

仲間は、皆そのことを知っていて、サマリをナージフの娘だと言ってからかった。

 

しばらくして、ナージフはサマリが言葉少なな理由に思い当たった。

いつも1人でいて、傍のインコに一方的に話すだけで、普段村人との会話が少ないことが原因だった。

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決して村人から嫌われている訳でもない。

それなのに孤高を保ち、誰も近寄らない遺跡の奥に寝床を持ち、インコに守られるように自由気ままに生きる少女。

 

 

その世間ズレした境遇を、大きな街出身のナージフは哀れに思った。

 

ナージフは、仲間と共にサマリと極力会話をするように努めた。

 

暇つぶしというには、あまりにも長期にわたるその行為。

何故そんな事をしようと思ったのか、当の本人のナージフにもわからない。

 

 

今にして思えば、短剣を渡したあの時から、ナージフはサマリに不思議な術をかけられていたのではないだろうか?

 

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(そんな馬鹿なことがあるか)

自分の腕だけを頼りに生きてきた彼は、そんなに信仰心が強くない。

 

サマリは何処の街にでもいるような、ただの孤児だ。

そのはずだ。

ちょっと首を傾げる事はあるけれど。

ちょっと。度々。頻繁に?

 

ナージフの疑問は常に絶えない。それなのに、どうしてこうも世話を焼いているのだろう。

 

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(ナージル!ねぇ、ナージル!)

間違って覚えた彼の名前を、頑なに直そうとしないサマリの白い顔を思い浮かべる。

まだまだ子供だと思っていたサマリが、会う度に成長していくのを半ば苦々しく思った。

 

          続く

 

🌹9月18日(土)プクコレ

            19日(日)蝶の舞うギルド