23.種


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『植えて育てるという発想は無かったな。クククッ、なかなか人間とは面白い。面白いが、いただけないな』

リヤハはそう独り言を呟くと、その場で動けずにいるサマリに近づいた。

 

『そのソルとかいうのは、何処にいる?』

「わからない。今朝から何処かへ飛んでいってしまったもの」

『飛んで・・?』

「ソルは、黄色いインコよ。このくらいの」

そう言って、サマリは両手をすくうように合わせて小さいソルが乗るくらいの大きさを示した。

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『なるほど・・消えたと思ったが小さく姿を変えていたのだな・・あいつめ』

リヤハは、片眉を上げて面白そうに笑った。

笑うと、口元から小さな牙が見えた。

「何のこと?それに、貴方は何故ここに?」

少し気持ちが落ち着いて、とりあえず会話の出来る相手だという事に安心したサマリは、短剣からは手を離し、勇気を振り絞って質問をぶつけた。

 

『昼寝から起きたら、様子がおかしくて見に来たのさ』

リヤハは視線をサマリから側の光る草に移動させた。

「ひるね・・・」

相手の言う事がわからなくて、サマリはおうむ返しに呟く。

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『ともかく、これは簡単にヒトの手に渡って良い代物ではないのだ。あいつに与えたのは三粒だけだったのに、まさかこのように増やされるなど、想定していなかった私のミスだ。

悪いが、一掃させて貰う』

「悪いが」と言いながら、これっぽっちも悪いと思っていない口調で、リヤハはサマリに言い放った。 

『吹き飛ばして拡散させるわけにはいかぬしな。ふむ・・。枯らすとしよう。寝起きで全力が出ない事を感謝するんだな。そうでなければ、この村ごと吹き飛ばして砂に埋めていたところだ。』

そうブツブツ言いながら、リヤハは岩壁に手を当てて目を瞑った。

何をするつもりなのかと、問うヒマもなく、リヤハがほんの一瞬手先に意識を集中すると、岩の奥で大量の砂が流れる音がした。

それと同時に、サマリの足元がぐらりと揺れた。

地震だ。

物心ついてから、地震というものの経験がなかったサマリは、目眩と恐怖を覚えて脚がすくみ、その場にへたり込んだ。

「ま、待って!枯らすってどういう意味!?」

サマリはぺたりとお尻をつけて座り込んだ体勢ながらも、思わず叫んだ。なんて乱暴な話だ、と憤慨する。

 

『そのままの意味さ。水が無くなれば、枯れるだろう』

「そんな事したら、私の水は?食べ物は?急に現れて酷すぎるわ!此処は子供のころからずっと私の家なのよ!」

『・・・ふん、もう遅い。この神殿への水の流れは塞いだ。そのうち、そこらの草は枯れるだろう。』

「そんな・・・。」

『私達、古の精霊へ礼を欠いた上、大事な命の種を増やし、毎日食っていたなど、言語道断だ』

「命の・・種・・・?」

 

『そもそも、この草を食べてきたのなら、どこでも生きていけるはずだ。金の髪の娘よ、この水源を塞いだ事により、村のオアシスも、いずれ枯れるだろう。一年後か、十年後か、もっと持つかはわからぬが、今のうちに、次の住処を探すのだな』

「お願い!やめて・・お願いよ・・」

 

今起こっている事は夢ではなかろうか?

誰か夢だと言って欲しい。

先程の突風で感じた嫌な予感はこの事だった。

サマリは震えながらリヤハに追い縋ろうと手を伸ばした。

先程の地震のせいで、脚に力が入らない。

 

(私が、この人のことを起こしたって言ってた。私のせいなの?なんで?・・・まさか、今朝の!?)

今朝、隊商が出発する直前に、自分が無意識にナージフを傷つけてしまった事は記憶に新しい。

小さな頃も村の子供達と遊んでいて、夢中になると意識が飛んで、気がつくと一人だった事が幾度かあった。

自分が他の子とちょっと違う気がしていた。

それは、全く嬉しくない事実だった。

 

いつも村人は遠巻きに自分に優しくしてくれた。感謝と寂しさと、諦観。

家があり、ソルもいて、自分はずっとこの村にいるのだと思っていた。けれど、やはり自分は、この村に居てはいけないのかもしれない。

その証拠に、今まさに、この村の命ともいえるオアシスの水源が、一部だけれど、塞がれてしまったではないか!

 

「私は出て行くから!でもオアシスだけは。村の人達を巻き添えにしないで。それに、それに・・・。此処にはソルの巣があるのよ!」

 

          続く

 


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