サマリにかかっている風の精霊の加護のおかげで、ソルの背中は快適で、たまに羽ばたく時に動く程度。雲を切り風に乗り、かなりの速さでオアシスの村へと向かっていた。
サマリは飛行中、自分がマッカに来た目的をサーリーに話して聞かせた。
オアシスの水源が涸れるのを防ぐため、炎の精霊の力を借りに来たこと。約束を取り付けたけれど、その前に村人全員を一度村の外にださなければならない事、失敗した場合には村の家屋が、最悪ヒトさえも消えてしまうかもしれない事。
最初の精霊の話から信じがたい事ばかりで、サーリーは頭の中の情報処理が追いつかなかった。けれど実際に自分は怪鳥の背に乗って、青空を懸けている。
「連れて来ちゃってごめんなさい、サーリーを街に帰す時間がなかったの」
二人は、立膝をするような姿勢で並んでソルの背中に乗っている。サマリは眉根を寄せてサーリーを覗き込んだ。
「俺も手伝うよ。サマリが育った村も見てみたいしさ」
その言葉を聞いてサマリは安堵と歓喜の混ざったような笑顔を見せたが、不安が押し寄せたのかすぐに笑顔が強張り、サーリーをとまどわせた。
「本当は不安で不安で、仕方がないの。誰も私を信じてくれなかったらどうしよう」
サーリーは、半分涙目で俯くサマリにかける言葉を探していたが、すぐに見つからなかった。眼下の景色は、いつの間にか赤茶けた岩砂漠へ変化していた。遠くの空が白み始める。空から見る黎明は荘厳だった。
ソルの背中に並ぶ二人の手はすぐ隣り合う位置にあった。サーリーはサマリの手を取ろうとしたが、落ちそうで動く事が出来ず、そっと自分の右手の小指を、サマリの左手の小指に絡ませた。
「俺が信じてるよ」
返事の代わりに、コツンとサマリの頭がサーリーの肩にぶつかった。
急に静かになった二人は、寄り添ったまま互いの小指に力を込めた。
星はだんだん白んでいく空に消えていく。
まもなく前方に現れた緑と水の煌めきが、二人と一匹を迎えた。
オアシスの村だ。
海を見慣れたサーリーも、砂漠の中にポツンとあるオアシスを視界に捉え、感嘆の声を上げた。
ソルはその大きく白い姿を村人に気づかれないように一度旋回し、高い岩壁の背後から神殿側へ。そして、そのまま崩れた神殿の奥にある大穴から自分の巣へ降り立った。
『ピピ!帰って来たわ!アタチのおうち』
すぐにソルは、自分の巣に満足気に座り込んだ。
サマリは、先にソルの背中から降りる。続いてサーリーも、深呼吸をしてからズルズルと滑るように巣に足をかけて降りる事が出来た。
ソルの巣の周辺は特に変わったこともない様子だ。サマリは、すぐに腰のバックからマッカで買っておいた頑丈そうな大きい布袋を取り出した。ソルに手を伸ばし、布袋を巣に引っ掛けるように置くとアレコレ話をしている。
ソルは座っていても大きくて、その首筋を撫でるにも、少し背伸びをしなければならなかった。
サーリーは、降りた場所が洞穴の中だったので、戸惑っていた。村へは門から入るものだという先入観があった為だ。
「本当にソルなんだな」
ソルの巣の周りを興味深く探索していたサーリーは、少し離れた場所から声をかけた。すると、ソルに寄り添うサマリは笑って手招きをする。
ソルはピィ!と大きな身体には似つかわしくない可愛らしい声で囀って、赤い瞳でサーリーを見た。赤い目も、白く輝く羽毛も美しいと、サーリーは思った。
「ルフをこの目で見られるなんて・・・」
その独り言を聞いたサマリは、サーリーに訊ねた。
「ルナ?マッカでは、ロック鳥をルナと呼ぶの?」
サーリーは、サマリがまた訛っている事を微笑ましく思ったが一応訂正してみる。
「ルナ(月)じゃなくて、ルフ(神鳥)だよ。マッカに風の神殿はないけど、神殿に真水を買いに行く時に、像があるから覚えてた」
サーリーはそう言いながら(おっと、「買いに行く」じゃなくて「下賜される水に御礼をする」だっけな)と、内心舌を出す。
「ル・・フ・・」
サマリは小さく呟いて何か考え込んでいたが、洞窟の様子に気を取られていたサーリーは、それには気が付かなかった。
続く
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