70.繋がる過去

 


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サマリは、長老の告白を聞き終わった時、自分が想像以上に冷静な事に気がついた。前からそんな気がしていたと言った方がいいかもしれない。予想が、確信に変わった、そんな感想だ。

ずっと抱えていた疑問も、ストンと胸に落ちた。

いつもの穏やかな表情に戻ったサマリを、長老は安堵の面持ちで眺め、いつものようにそっと金の髪を撫でた。

「鳥の・・っ、サマリ、本当にすまぬな」

村の治安と経営を優先し、家畜を食べるロック鳥に赤ん坊の生死を預けた事が、長老たる自分の最大の罪。

「鳥の子でいいわ。今までと同じで良いの。私は人間なのね?それなら良いの」

サマリはそう答えて微笑んだ。自分の存在意義、ルーツ、それがわかれば充分だ。

ソルとの生活は、なんの問題もなく幸せだった。孤児は村にも何人かいたし、毎日の生活がそんなものだと思えば、悩む事もない。食べ物にも水にも、困った記憶がなかった。村人達より贅沢をしているのではないかと思う時もあった。

時折、ソルは居なくなることがあって、一人が寂しい時はあったけれど、帰ってくる時にいつも何かを咥えてくるのが楽しみだった。

何より、今回の一件で、サマリはソルと言葉を交わす事ができるようになった。今までどれだけの愛情で育てて来てくれたのか、想像に難くない。

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「きっと、本当のお母さんが、ソルに私の事を頼んだのね」

長老もその言葉に深くうなづいた。

今でも鮮明に思い出す、あの煌びやかな服を纏った夫婦。サマリと同じ金の髪。

助けられなかった事が今も悔やまれる。

一方で長老は、長い間秘密にしてきた事を話し終えて、心から安堵した。

「鳥の子よ、これだけはわかって欲しい。私は罪の意識や村の為にお前の世話をした訳じゃない。頼まれずとも連れ帰る気だったし、本当に慈しみ、我が子のように教育し、そしてお前はそれに応えてくれた」

サマリは長老の可愛い研究助手だった。時に実の孫娘ラウダよりも近い感情で、大事に育てた我が子のような存在だ。

「長老、私、いつも感謝してるのよ」

話の中に出てきた赤いドレスの女性とは、おそらくイフリーテの事だろうと思われた。サマリがこうして人間らしい生活を送っていられるのは、イフリーテのおかげなのだと知る事が出来た。 

部屋の片付けを再開した二人だったが、殆ど何も進まないまま時が過ぎていった。 

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しばらくして、バタバタと足音が近づいて来たかと思うと、ノックも無しに部屋のドアがバーンと開いた。

「おじいちゃん、サマリ、夕飯が出来たわ!」

ラウダがひょっこりとドアの向こうから顔を出し、手招きする。

「ラウダ、何度言ったらわかるんだい、部屋に入る時は・・」

長老が呆れて咎める声を適当にあしらって、ラウダはサマリに近づくとギュッと抱きしめる。

「うんうん、ごめんね、おじいちゃん!さぁさぁ、サマリちゃん!行きましょ!」

ラウダは、サマリが手にしていた木片をささっと取り上げて、無造作に脇に置くと、長老を置き去りにしたままサマリを強引に連れて歩き始める。

手を引かれ、廊下を歩くサマリは心底安堵していた。

突如村に帰ってきて、村人の大移動を支持し、怪しげな術で景色を変えてみせたサマリだ。態度を変えられても仕方なかったのに、以前と同じように接してくれた。

「ラウダちゃん、ありがとう」

ボソッとそう呟いたが、それがラウダに伝わったかどうかは定かでは無かった。

ラウダは軽く振り向いて「今日はご馳走よ!」と目を輝かせた。

        続く


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