63.枯れ果てた家の跡

 


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「村へ降りる前に、行きたい所があるの」

サマリは、疲れて巣で眠ってしまったソルを撫でながら、サーリーに告げた。

サーリーとしては、言われるがままついていくしかない。

洞窟の横穴をくぐり、途中から四つん這いになってサマリの後ろを進んで行く。もう一つ、別の横穴をくぐる。前方は明るく、急に視界が開けて、囲まれた岩壁の上には空も見える。太陽はだいぶ上がってきており、昼前くらいだろうか。

通されたその場所は、枯れ草の舞う茶色い広間だった。その奥に、崩れたテントと、樽が見えた。

「やっぱり、枯れてしまった・・・」

案内してくれたサマリは、フラフラとした足取りで進んで行く。慌ててサーリーはその背中を追った。

「サマリ、いったいここは?」

サーリーが訊ねると、サマリはテントの布に積もった土埃を払い落としながら、振り向きもせずに答えた。

「ここは・・、私の家だった所よ・・」

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そこは、サマリがつい数週間前まで住んでいた場所だった。しかし、岩壁を細く流れる湧水は枯れ、掘り返された命の草のあった場所は既に土が乾いて干涸びていた。

樽に並々と注がれていた水も、漏れたのか蒸発したのか、一滴も残ってはいなかった。

辛うじて高木だけは枯れずにいたが、萎れて元気がなかった。

確実に、その時は近づいている。しかも、予想より速く。

先程上空から見たオアシスは、水をたたえ光っていたが、きっと側に近づけば異変に気がつく事だろう。

サマリは小さな溜息を一つつくと、テントの布を引き剥がし、腕にかかえた。それから、積み重なった枝をかき分けて中からヤシの実を2つ手に持って戻ってきた。これはサマリの保存食のようなものだった。

「私達もちょっと休憩しよう」

ひょいとヤシの実をサーリーの胸に押し付けると、サマリは布を地面に広げた。そこに座るようにサーリーを促して再びヤシの実を一つ受け取ると、腰の短剣で器用に割っていく。中にはうっすら甘い汁が入っていて、それを水代わりに飲むのだ。

「はい、どうぞ」

サマリは笑ってヤシの実をサーリーに差し出す。

「良いね、さすがに喉が乾いていたよ」

あっという間にヤシのジュースを飲み干したサーリーを見て、サマリは笑ってもう一つも割りはじめた。

「サマリは、ここに住んでたの?一人で?」

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以前の緑と水の豊かな光景を知らないサーリーには、ここがひどい場所に見えたのだろう。深刻な表情で周りを見渡している。

「ソルとずっと一緒にね。もっと素敵な所だったのよ?でも、もう住めないわね。これで思い切りがついたわ。これから存分に動ける気がする」

淡々と、静かな微笑みをたたえ、サマリは二つ目のヤシの実をサーリーに手渡した。

「今ここに、サーリーが居てくれて良かったわ」

そうでなければ、これから長老をはじめとする村人の説得など、する気にならなかっただろう。住む家が無くなったという事実は、自分で覚悟していた以上に孤独を感じさせた。無理して笑っていられるのは、サーリーがいるからだ。もし一度泣いてしまったら、きっと孤独に押し潰されてしまっただろう。

サマリは、心配そうに自分を見つめる視線に笑顔で応えた。

「あ、これもあるわ。昨日一緒に買い物した時のよ。お腹空いたでしょ?今はこれで我慢してくれる?」

腰の布袋から、今度は干し肉を取り出す。燻製されてすぐに食べられるものだ。

「あ、これ知ってるよ!俺さ、一度食べてみたかったんだよ」

すぐに二人は、笑いながら簡単な食事を始めた。マッカの食堂で楽しく働いていたあの時と同じように会話は尽きなかった。

「また喉が乾いちゃうわね。でも、少し休んだら村に降りるから大丈夫よ」

サマリが色々気を遣ってくれるからか、サーリーは逆に自分では不思議なほど落ち着いていた。これから何が起こるのかわからないが、自分はサマリの味方であればいい。

「俺さ、結構ワクワクしてるんだ。広い世界に飛び出したんだ。こんな体験、人生で一度有るか無いかだろ?」

最後の干し肉を呑み込むと、サーリーは布の上にゴロンと横になった。少し地面は固いが、寝られない事もない。幸い、枯れずに生き残った高木の葉がうまく日陰を作ってくれ、風通しも良かった。昨夜寝ていないせいもあり、いつのまにかサーリーは静かな寝息を立て始めた。

サマリも少しお腹が満たされて気分も落ち着いた。サーリーが寝たのを見届けると、自分も側で休む事にした。

目覚めたら、その先が勝負だ。

横になる為に腰の布袋を外して枕元へ置く。不意に思いついて中身を確認しようとその蓋を開け、そっと鉱石を手に取る。イフリーテが精霊の力を込めたその石は、サマリの手の中で不思議な輝きを放っていた。

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         続く

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