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ひと月後の日蝕の日、オアシスの水が湧き出る神殿周辺でイフリーテが秘術を行う。上手くいけば、水源が塞がる前の状態が保たれ枯れる事なく、神殿は綺麗になり、リヤハも体裁が整って納得する筈だ。
サマリは何とかイフリーテと約束を取り付ける事に成功するが、問題は、その秘術を行なっている時間に村を空にしなければいけない事だった。
イフリーテは、どんな魔法なのか、食べた事もない豪華な食事を出してくれた。その食卓を前にして、サマリは嬉しいながらも居心地悪そうに座っている。
普段、草ばかり食べていたサマリは沢山食べる事が出来ず、申し訳ない気持ちになる。ソルも火の通った食べ物を好まない為、果物をつついている。イフリーテは、用意だけすると自分は何処かへ行ってしまった。たぶん、ずっと緊張していたサマリを気遣って、わざと席を外してくれたのだ。
黙々とトカゲの肉を噛み締めながら、サマリはずっと考えていた。村人達はサマリを、遺跡に住む変わった孤児としか思っていない筈だ。果たして、自分などの言う事を、素直に村人が聞いてくれるだろうか。
「とにかく、一生懸命にお願いするしかないけど、信じてもらうのは難しいものね」
と、サマリは傍のソルに話しかけた。
『ピィ?いざとなったら、アタチがおっきくなって、その分からず屋を咥えて村の外に放り出してあげるわ!ピ!』
頼もしい答えだったが、少々乱暴な気もする。
サマリは、あの白い大きな鳥の姿のソルを思い出して苦笑いした。
「もうあまり動けない方もいるのよね」
年寄りが数人、それと怪我人が数人。きっと暑い砂砂漠の村の外へ自力で出るのは無理だと思えた。
「荷車が有れば良いわよね!素直に乗ってくれたら、の話だけど」
サマリは、トカゲの串焼きをもう一口頬張り、村の所持する荷車を記憶の中で総動員させてみた。しかし、せいぜい一人を乗せていく程度のものが数台あるだけだ。
サマリはあれこれと思いを巡らせ、肉をごくりと飲み込んだ。
「ナージル達が使っている大きな幌のある車があれば良いのに」
それが有れば、万が一に備えて少しの財産を持ち出すことも出来るし、病人を寝かせておく事も出来る。
「ナージルは今度いつ来るか・・しら・・ソル・・・」
少しずつお腹がいっぱいになって沢山のことを考えているうちに、サマリは食卓で突っ伏して寝てしまった。
『ピィ。サマリちゃんは良い子ね。可愛い可愛いサマリちゃん、キラキラ輝く金の髪。ピピピ』
ソルが優しく囀ると、イフリーテが部屋に戻ってきた。彼女がそっと手をあげると、サマリの身体はスッと浮き上がり、すぐそばの寝台へ運ばれた。
『一生懸命な良い子じゃな』
サマリの顔を覗き込んで、イフリーテがソルに笑いかけた。
『そりゃそうよ!アタチの娘ですもの』
ソルはここぞとばかりに自慢をする。本当にサマリへの愛情でいっぱいなのだ。
しかし、イフリーテは少し顔を曇らせてソルに告げた。
『この子は人間。そろそろ独り立ちが近づいているわ。貴女も希少なロック鳥として、早く番を見つけて本当の雛を育てなければ』
友として心配しているのだから、とイフリーテはソルに手を伸ばしたが、ソルはその手に乗ろうとはしなかった。
『誰も、白い(アルビノの)アタチを迎えてくれる人など居ないわ。ピピピ!リーテちゃんだって、わかっているでしょう!サマリちゃんはアタチの子よ!アタチが見つけたのよ!卵が割れてしまったあの日に、アタチが見つけたの!誰にも渡さないわ!』
スヤスヤと眠るサマリの足元で、羽毛を逆立て威嚇するソルをどうする事も出来ずに、イフリーテは再びその部屋を後にした。
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続く