50.束の間の休息

 


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同じ日の朝。この街を拠点とする隊商が数ヶ月の仕入れから戻り、無事マッカの門をくぐった。久しぶりの帰国に商人達は安堵の表情を浮かべ、歓声を上げる者もいた。

門番に歓迎され意気揚々と歩む隊商の最後尾を務めるのは、傭兵隊長ナージフ。

最後の中継地点であるオアシスの街を出発してから十日余り。途中で一度魔物に遭遇して戦闘となり、予定より数日遅れての到着である。幸い怪我人は軽傷で、積荷の商品に被害は無く、傭兵達ははしっかりと役目を果たして満足気だ。

「祭りに到着が間に合わず、本当にすまない」

ナージフは隊商の責任者として、商人に謝罪を兼ねた挨拶をしていた。商人は気にするな、と言うように笑顔でナージフを労い、約束通りの報酬が支払われた。こうして、一旦この傭兵隊は解散となる。

傭兵達は、一匹狼の集まりだ。PTを組んで動いているように見える者達も、雇い主とは個別契約している。

その為、皆バラバラになった後は、何処へ行くかはわからない。自宅へ戻る者もいるし、稼いだ金を散財しに夜の街へ繰り出すものもいるだろう。

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ナージフは旅ばかりの生活をしているし、養う家族もいない為家を持っておらず、財産はこのマッカの街のギルドに預けてある。滞在中は宿へ泊まり、すぐにまた次の仕事を探して街を出る。

「じゃあな」

と、ナージフは傍にいたイブンに声をかけ、そのままギルドの方へ歩き出す。すると、イブンもその後ろをついてくる。

ギルドへ行くのならば方向が同じなのは仕方ない。そう思ったが、ギルドの用事が終わってもついてくる。

ナージフは、明らかに自分の後ろを歩く若者に呆れて声をかけた。

「イブン、お前ここに家があるんだろ?親に顔でも見せに行ってこいよ」

歩みを止めずに、口だけしっしっと、追いやるように手を振ると、イブンは情け無い顔をして訴えた。

「そんな事言わないでくださいよ、兄貴!師匠!一生ついていきますから!」

どうやら必要以上に今回の旅で懐かれてしまったらしい。

「こんなむさ苦しい弟子なんか要らん!」

イブンは懲りずにあれこれと話しかけて機嫌を取ろうとしている。

「俺の弟子はサマリだけだ」

咄嗟に口から出た言葉に自分でも驚いたナージフは、ポリポリと頭を掻いた。

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何となく照れ隠しに周りを見渡すと、さびれた通りだった場所の一角がやけに賑わっている。(ん?新店舗か?)と足を運んでみると、そこはいつもの見慣れた絨毯売りの店先だ。そこが今は小綺麗に掃除され、可愛らしいアクセサリーや布の小物が所狭しと並べられている。

小物も絨毯もナージフに興味も必要も無いものだ。ちらと眺めただけで行き過ぎようとすると、客に得意げに説明をする店主の声が耳に入ってきた。

「そりゃもう、サマリちゃんは良い子だったさー。薄い金の巻き毛で色白でなぁ。まさに女神様だよ」

その台詞に、ナージフとイブンはお互い間抜けた顔を見合わせた。マッカの街にも似たような姿の同じ名前の娘がいるのだろうか、と。

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        続く

 


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