47.間違い


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「あの、教えてほしいのですが」

と、サマリはおそるおそる口を開いた。

「譜にはどんな意味が?リヤハ様の願いを聞き届けてくださいますか?」

イフリーテはその言葉にわずかに顔を曇らせ、掌の中のソルをそっと覆い隠すように掴んだ。

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ソルは、突然イフリーテの両手に囲われて、身動きが出来ない状態になり、彼女の親指と人差し指の間から顔だけ出していた。

『最後まで黙って聞いてほしい』

イフリーテは一瞬躊躇い、サマリを見据えた。

『先程其方が私に聞かせてくれた譜は、自分の命と引き換えに、言うことを聞いてくださいと言う内容の誓いの言葉であった』

言葉が言い終わらないうちに、イフリーテの掌の中のソルがジタバタと騒ぎ出す。

『リーテちゃん!?どういう事なの!リヤハ様は、アタチ達を騙したの!?ピー!いくらリーテちゃんがアタチのお友達でも、大事な大事なサマリちゃんの命を奪うなんてしたら、絶対の絶対に許さないから!!!ピギーー!!』

この行動を察知していたから、イフリーテはソルをしっかり掴んでいたのだ。

サマリはソルとイフリーテを交互に見つめ、どうすることも出来ずに次の言葉を待っている。額から滲み出る汗を軽く拭う。

『話を最後まで聞いて!痛っ!』

ソルは歯のないクチバシで、放せとばかりにイフリーテの手をガジガジと噛んでいる。

『本来なら、其方は私のモノであったが、残念ながら、あの誓いは無効じゃ!言葉が間違っておった』

『ピ?』

ソルは齧るのをやめてイフリーテを見上げる。

サマリもホッと胸を撫で下ろしたが、安心すると同時に、自分の調べたものが間違っていることに不満を覚えた。

「宝求めんと欲する者よ

 月の子供の祈りを捧げよ

 その炎は命の光

 輝ける佳人リーテの瞳は時を止め

 時を移し、何処に誘わん

 月の子の譜を捧げ

 佳人リーテの炎を授からん」

もう暗記してしまったサマリは、呟くように言葉を唱えた。

『其方に間違いを教えると、其方は命をかけてしまう。そうすると、私はかけがえのない友をうしなってしまうの。それは困るわね』

だから願いは聞き入れられない、と言われている事を、サマリはすぐに理解した。

イフリーテは愛おしそうに掌の中のソルの頭を撫でる。

どうにもこうにも、八方塞がりのように思えた。

イフリーテの秘宝を使うと、オアシスの村一帯の時間が巻き戻る。その場に残るのは、およ百年前の村の姿。そしてそこに、生きるものは何も無い。確かに、その状態もサマリの望みではなかった。

「もっと小さな範囲だけ、元に戻す事はできませんか?神殿だけとか」

サマリは、イフリーテの秘宝がどんなものなのか、朧げながら理解し始めていた。

神殿は村から少し離れている。もうそこにサマリの住む場所がなくなっても、それはそれで仕方がないと思うのだ。

「友の娘の願いなら試してみる価値はあるけれど、保証はできぬ」

 此処へ辿り着くために、サマリは頑張ってきた。出来れば無駄足にはしたくない。

「リヤハ様は、秘宝を見たいとおっしゃっただけで、自ら何かしたいとは私に告げませんでした。神殿の範囲だけ時が戻れば、水源は枯れず、建物も元通り。あとはイフリーテ様の気持ち次第ですが・・・」

必死なサマリを見て何かを思いついたイフリーテは、手を広げソルを自由にする。そしてその空いた手で、サマリを手招きをした。

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ソルはようやく解放されたのを喜んで、パタパタと少し離れた場所へ飛んで行った。

入れ替わりにすぐそばに来たサマリに、イフリーテは小声で、何かを告げた。

真っ青になり、口をパクパクさせたサマリだったが、すぐに顔を引き締めて、イフリーテに向かって頭を垂れた。

          続く


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